第14章 燈火の 影にかがよふ うつせみの
「気をやれたか?」
「っ……駄目って言った、のに…」
僅かに頷きはしたものの、それ以上は羞恥が勝ったのか。耳まで赤くさせ、布団に顔を押し付けくぐもった返事を向ける。
そんな蛍の姿を見ているだけで、言い様のない感情が杏寿郎の中で頭を擡(もた)げた。
「すまん。蛍の声が愛らしくて、聴いていたかったんだ」
「…っ」
謝罪を口にしながらも、対象的に笑みは深くなる。
赤い耳に口付けを落として囁やけば、ひくりと身を震わす。
そんな些細な蛍の反応一つにも、体の芯が熱くなるようだった。
「もっと聴きたい」
「ん…ッ」
愛液で濡れた指を引き抜く際に、優しく入り口を撫でる。
くちゃりと卑猥にも聞こえる水音は、十分濡れている証だ。
「もっと近くで」
「…ぁ…」
覆い被さり密着してくる筋肉質な体。
一層熱を持ったそれを下半身に感じて、蛍の目が向く。
言い様のない感情と同様に、頭を擡げていたのは杏寿郎自身。
硬く熱く欲望を主張してくるそれを蛍の下腹部に添えて、杏寿郎は熱い息をついた。
「俺自身で、蛍を感じたいんだ」
熱く囁く声に、熱く燃える瞳。
今にも食らい付かんとしながら、蛍の言葉を待っている。
どこまでも温かく、優しい炎。
偽りの仮面以外で、男根を受け入れたことなど一度もない。
そうして心を守ってきた仮面は、今はもうどこにもない。
深呼吸を、ひとつ。
「…ん」
広げた両腕を杏寿郎の頸に緩く回すと、蛍は口元を綻ばせた。
「いいよ…杏寿郎を、たくさん感じさせてくれるなら」
微かに残る体の震えは、心身を縛り付けてくる拭えない過去達。
その過去を消すことはできずとも、目の前の炎で上書きをしてくれたなら。
「私を、杏寿郎のものにして」
一歩、踏み出せる気がした。