第37章 遊郭へ
天元が移動中で目的地がはっきりしないのか。はたまた彼の安否自体がはっきりしないのか。
逸る気持ちを抑えながら蛍も固唾を呑んで鼠達を見守った。
どちらにせよ時間は限られている。
堕姫が気付く前に辿り着かなければ。
「わ、私も手伝おうか? 影鬼使って天元捜すとか…」
鼠達の言葉はわからないが、こちらの言いたいことは伝わるはず。
戸惑いながらもそう問いかけた時だった。
──ズズン…!
もの凄い衝撃だった。
地を震わすような地響きが、空気を伝い肌に当たったのだ。
感じるような生易しいものではない。
肌を叩くような衝撃が蛍に突き刺さる。
かつての鬼殺隊本部地下牢獄で感じた、土砂崩れの地響きを上回る程の。
「なに…っ(天元の爆破?)」
にしては鼠達の狼狽えが激しい。
小さな体を震わせ縮まるように蛍にしがみつく様は、とても主の技を感じているようには思えない。
もしかして堕姫の起こしたものか。
「つぅっ…?」
考えを巡らす前に、蛍の脳裏に何かが浮かんだ気がした。
思わず頭を押さえて俯く。
(何?)
──薄暗い。
闇夜の中に立つ人影が薄らと見える。
否、脳裏に浮かぶ。
人影は知らない男の姿だった。
袴姿の刀を手にした、長い髪の男。
赤みがかった長髪は後頭部の高い位置でひとつ結びにしており、燃ゆる炎のように揺れている。
左額にははっきりと目に見える痣の跡があり、花札のような耳飾りを付けている。
冴えた瞳は静かな怒りを携え、ただ前だけを見据えていた。
『何が楽しい?』
男は語る。
『何が面白い?』
見た目の若さとはかけ離れた、重々しい声で。
『どうしてわからない?』
『どうして忘れる?』
生易しい問いかけではない。
答えを一つ間違えれば即頸を跳ねられるような尋問だった。
『人間だったろう。お前もかつては』
『痛みや苦しみに藻掻いて涙を流していたはずだ』
前を見据え問い質す姿は、蛍に語りかけているようにも見える。
しかしこれは実際の出来事ではない。
急に蛍の脳裏に浮かんだ残像だ。