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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第14章 燈火の 影にかがよふ うつせみの



 見たことのない艶やかな姿で、まるで花開くように身体を晒す。
 その姿が美々しくないはずがない。
 花の奥に仕舞い込んでいるであろう蜜を、味わいたいと思った。


「もっと見せてくれないか」


 ちゅ、と微かな音を立てて胸元に口付け。
 するりと浴衣の紐を引けば、簡単に目の前の布は体を隠す役割を放棄した。

 重なり合う布の隙間から除く、白い足。
 這うように杏寿郎の手が撫でれば、ぴくんと蛍の体が震える。

 布が擦れる音。
 覆い被さる影。
 胸元に感じる息遣い。
 腿の付け根へと伸びる無骨な手。

 忘れていたようで、忘れてなどいなかった。
 着流しの裾を握る指先が、きつく力を込める。


「蛍…」


 静かに名を呼ぶ声に、見上げれば。
 濡れて重力に従い垂れた黄金色の前髪の隙間から、射抜くような眼がこちらを向いている。
 燃えるような灯火を携えた、欲の色。










『──柚霧』










 喉が震えた。






 その異変に気付いたのは、杏寿郎の手が腿の間に割り込もうとした時だった。
 微かな震えは、最初は快楽によるものだと思っていた。
 しかしかたかたと戦慄く震えは先程とは違う。


「…蛍?」


 顔を僅かに離して見下ろせば、縦に割れた赤い眼と合う。
 それは凝視するように、杏寿郎を見開いた目で見上げていた。

 快楽に染まり濡れた瞳とは違う。
 恥じらい視線を逸した瞳とも違う。


「どうし──」


 見たことのない蛍の変化に、焦った手が目元へと伸びる。
 途端にびくりと大きく体が跳ねて、蛍の顔は反射的に頸を竦(すく)め避けた。

 明らかな拒否の意。


「ほたる…?」


 意味がわからず。
 ただ戸惑いのまま呼べば、はっとした赤い眼が瞬いた。

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