第14章 燈火の 影にかがよふ うつせみの
もっと触れてみたい。
もっと間近で見てみたい。
欲のままに蛍の胸元の掛衿を左右に開く。
柔らかな傾斜を作る白い丘。
丘の頂きには、淡い花の芽がぽつんと一つ。
さながら本物の果実のようにも見える様には、感嘆の溜息が零れそうになった。
「そんなに、じっと見ないで…」
思わず食い入るように見つめれば、視線を感じた蛍が吐息混じりに囁かに抵抗の声を上げた。
顔を上げれば濡れた赤い瞳と重なる。
羞恥故か、すぐに逸らされた目線は外部へと逃げた。
これが日々の鍛錬であれば、目を逸らすなと伝えたはずだ。
しかし今はその些細な逃げの行為が、何故かどくりと心臓を打つ。
恥じらう蛍に、己の中に宿る熱が高まっていくようだ。
「凄く綺麗なものだと思って見ていた。駄目か?」
「っ…その訊き方、狡い…」
言葉は抗っているものの行動は伴っていない。
杏寿郎の着物の裾を握った手は、離されることはない。
その些細な繋がりに笑みを深めると、杏寿郎は柔らかな目の前の丘に顔を埋めた。
「あっ」
ぷくりと実るように充血した花の芽を口に含めば、一際声が高くなる。何故だか甘いと感じるそれを舌で転がせば、動きに合わせて組み敷いた体が小さく跳ねる。その姿がもっと見たくて、乳房を掴むように握り愛撫を重ねた。
「ぁ、あ、んぅっ…」
「見ても、触れても、君は綺麗だな…」
「っそんなこと、な」
「いいや綺麗だ」
一時も目を離せなくなる程に。
その身体と心を全て我が物にしろと、杏寿郎の中に潜む本能が告げるかのように。
艶やかに魅了してくる。