第14章 燈火の 影にかがよふ うつせみの
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「ふむ! 時透の協力で甘露寺を出し抜いたのだな!」
「協力っていうか、あれは一方的な蹴りだったけど…うん。でも助かったのは確かかな」
蝶屋敷での一戦。恋柱との一戦。
平民役の一般隊士に遠慮なく暴言を吐く無一郎を逐一止めたこと。
せっせと小豆を拾い集めることが地味に大変だったこと。
どの話にも興味を持ち、杏寿郎は声を上げて感心し、笑った。
余りに素直な反応に、気付けば蛍も笑顔で返すようになっていた。
改めて振り返れば、ここまで節分という行事を満喫した一日もない。
「でも鬼役はもう懲り懲り。一日中走り回らなきゃいけないし」
「しかし蛍は鬼だ、体力も問題ないだろう?」
「それでも昼間だよ? 人で言えば灼熱の炎の中を走り回れって言ってるようなものだよ」
「む…確かに」
「勝てなかったからご褒美も貰えなかったし…あ、いや、あのご褒美はもういいんだけど…」
輝利哉の血を流してまで、あの飴玉を作ってもらう訳にはいかない。
そうもごもごと言葉を濁す蛍の後頭部を、じっと杏寿郎は見つめた。
「褒美か」
ぽふりと、大きな手が頭部に触れる。
「今回の節分は、隊士の勝利で終わった。故に蛍に勝利の褒美は与えられないが…よく役を全うして頑張ったと、師としては誇りに思う」
「…え?」
「あの陽光の下、よく頑張ってくれた。偉いぞ」
ひと撫で、ふた撫で。
労わるように頭を撫でる手に、思わず蛍の顔が振り返る。
目が合えば、微笑みながら労わりの言葉を口にする杏寿郎が其処にいた。
「誰がなんと言おうと、俺にとって今日一番の功労者は蛍だ」
強い言葉で励ますでもない。
師と言いながらも、讃える声は寄り添うような優しい響きを持っていた。
慈しむように、愛しむように。
優しく頭を撫でて褒められた記憶は、いつの頃だったか。
懐かしさの中に切ないながらも胸がじんとして、蛍は再び顔を前方に戻した。
「なんか、照れる…」
「嫌だったか?」
「ううん」
「嫌じゃない」と呟いた声は小さく、髪の間から覗く耳がほんのりと赤く色付く。
些細なその変化を見つけた杏寿郎は、ぱちりと目を瞬くとやがて柔く口元を緩めた。