第14章 燈火の 影にかがよふ うつせみの
言われるがまま膝立ちで同じ布団の上に乗る。
すると杏寿郎の前で再び正座しようとした体は、腕を取られて引き寄せられた。
「わ…っ」
「軽いな、蛍は」
「じゃなくて! な、何っ」
「む?」
「なんで膝の上に…っ」
「乗せたいから乗せた!」
「そのまんま!」
軽々と腰に回る腕が抱き上げたかと思えば、すとんと下ろされたのは杏寿郎の膝の上。
背中から抱きしめる形で腰に腕を回されたままでは、抜け出そうにも抜け出せない。
「駄目か? 嫌なら止めるが」
「…ぅ」
じっと見てくる二つの目は曇りなきもので、厭らしさなど到底感じない。
だからこそ強く反論することもできずに、蛍は張っていた肩を落とした。
「別に…いい、けど」
触れられるであろう想像はしていた。
それを今更拒む気はない。
「そうか、よかった」
そう笑う杏寿郎の笑顔は、嫌という程見慣れたものなのだ。
瞳の奥の灯火は見えない。毒気を抜かれるとはこのことか。
「それで、初めての節分はどうだった?」
「え?」
「蛍の鬼役としての活躍を、俺は噂でしか聞いていない。疑の黒鬼が大勢の平民や隊士の命を奪ったと」
「…文字にしたら凄い物騒そうな言葉だね…」
「はは、確かに。だがそれだけ蛍が活躍できたということは、それだけ行事を楽しめたということだろう?」
「うーん…楽しくなかった訳じゃないけど…」
太陽光の下で命の札を搔き集めるのは、決して楽ではなかった。
ただそこまで自由に鬼殺隊本部を闊歩できたのも、節分という行事故だ。
「新しい発見はあったよ、色々」
「ふむ、それは興味深いな。聞かせてくれないか?」
「節分の話?」
「ああ。蛍が見たもの、感じたこと。それを君の口から聞きたい」
密着した体は鼓動を速めたが、他愛のない話を求める杏寿郎の姿勢に蛍の体から力が抜ける。
「わかった、いいよ」
「うむ!」
「…最初は、胡蝶の蝶屋敷だったんだよね」
今一度前を向いて話し出す。
振り返ればとてつもなく濃い一日だった。
怒涛に色々なことが過ぎ去ったが、それが嘘のように背中の体温は温かい。
その体温に身を預けたまま、ゆっくりと蛍は言葉を紡いだ。