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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第14章 燈火の 影にかがよふ うつせみの



(そもそも月房屋のことだって、人間の時のことだし。今はもう私は鬼で、あの時とは違…)


 言い聞かせるかのように巡っていた思考が、不意に止まる。
 見下ろした自分の体は、最早人間ではない。
 見た目は人間であっても、細胞から全く別のものへと変わってしまった。

 だからと言って過去は消せない。

 鬼となる直後に受けていた瀕死の傷は、全て綺麗に消えた。
 しかし幼い頃に負った小さな古傷などは残ったままだった。
 柚霧であった過去も、同じに消えはしないのだ。
 蛍の体に染み付いたまま残り続けるもの。


「…違う訳ないのに」


 自分はもう人間ではない。
 この両手は、血で赤く染まってしまった。


(寧ろ、汚くなってしまったのに)


 開いた両手を見下ろして俯く。

 そんな小さくも見える蛍の背中を、少しだけ開いた襖から見守る者が一人。
 入浴を終えた、着流し姿の杏寿郎だった。

 部屋へ入る前にと様子を見れば、縮まるような背中を見た。
 緊張しているのか、はたまた怖がっているのか。
 小さな背中だけでは意図が見えない。


「…待たせたな!!」

「ッわぁ!?」


 じっと背を見つめていたかと思えば、スパン!と勢い良く襖を開けて声を飛ばす。
 正座のまま飛び上がった蛍は、驚き振り返った。


「良い湯だった! 風呂の準備、礼を言う!」

「あ、う、うん」


 あたふたと向き直り姿勢を正す蛍に、ふむと顎に手を当てると、徐に杏寿郎が足を運んだのは畳の上ではなかった。


「…杏寿郎?」


 胡座を掻いて腰を下ろしたのは布団の上。
 蛍が目で追えば、ゆるりと両腕を広げられる。


「おいで、蛍」

「え…っ」


 にこりと笑う顔は、いつもの朗らかなものだ。
 しかしそんな催促など今までされたことはない。

 早急過ぎる展開に視線を泳がす蛍の反応は想定内。
 尚も杏寿郎は朗らかに笑いかけた。


「取って食ったりはしない。ずっと其処に座っていれば足も痺れるだろう。こちらへおいで」

「(あ、そういう…こと)…うん」

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