第5章 柱《弐》✔
ついさっき蜜璃ちゃんに変な男が言い寄らないように見ていようと、心に誓ったばかり。
だらかつい注意深く伊黒小芭内という男を観察してしまう。
じろじろ見ていれば、相手も不快感を覚えたのかまた睨まれた。
「な、仲良くしましょうっねっ」
間で蜜璃ちゃんが一人オロオロしてる。
どうしたものかと考えていると、前方の通路からもう一つ人影が見えた。
「待て伊黒、二人は湯浴み中で…上がったか!」
この屋敷の主である杏寿郎だ。
伊黒小芭内に話し掛けているところ、この蛇男は無断侵入した訳じゃなさそうだ。
そこは常識人として認めよう。
「二人で湯浴み?…甘露寺とあの鬼が、二人で湯浴みをしたのか?」
「? そうだが!」
頸を傾げつつ大きく頷く杏寿郎に、ぴんと空気が張り詰める。
と、こちらを向いた蛇男の目が…怖っ。
なんだか物凄く睨まれた。
「鬼なんぞ相手に丸腰になるとは油断し過ぎだ。いくら柱でも不用心だぞ、甘露寺」
「で、でも蛍ちゃんと一緒に洗いっこをしたんだけど、凄く楽しかったのよ」
ぴしゃん!と今度は雷が落ちたような衝撃で蛇男が固まる。
と、またもや睨まれた。
うわ、さっきより怖い。
確定だ。この男、蜜璃ちゃんに下心を持っている。
いくら柱とは言え、強くても人間性が最悪なら蜜璃ちゃんの婿としての資格はない。
注意して見ておこう。
「甘露寺と洗い合いをしたのか。仲良きことは良いことだ!」
うむ!と頷いた杏寿郎がこっちに歩み寄って…あれ。なんか見開いた目で笑顔のまま止まった。
その目は私の後方を見ているかと後ろを振り返ったけど、其処には何もない。
また視線を戻せば、変わらずこちらに目は向いたまま。
…なんだろう?
「杏寿郎?」
呼べば、はっとした目が瞬く。
「一体、誰かと思った!」
誰って、誰が? 私が?
…そんなに普段、みずぼらしい姿をしてたのかな…。
「いや、彩千代少女だというのはわかっていた。しかし湯浴みでこうも変わるとは思わなかったな」
いつも縛っている髪を下ろして、顔や体の汚れも全部落としたから、ね。
でもそんなに汚れてたんだ…。
素直な感情をはきはきと伝えてくれる杏寿郎は、相変わらずで。
でもちょっと、なんだか恥ずかしい。