第5章 柱《弐》✔
ざっくばらんに切られた黒い髪は、鎖骨辺りまでの長さ。
口元は包帯を巻いていて見えない。
蜜璃ちゃんよりほんの少し低い背丈に、細身の体。
鬼殺隊の黒い隊服に縦縞の羽織。
帯刀しているところと私の前に現れたところを見ると、もしかしたら…柱の一人?
全く感じなかった気配の扱いからして、そうなのかもしれない。
「あ、伊黒さん! こんばんは!」
やっぱり蜜璃ちゃんは顔見知りのようで、いぐろ、とその男のことを呼んだ。
「私、喋り過ぎちゃったかしら…? でもね、蛍ちゃんはとっても良い娘なのよ」
「良い娘も何もそいつは鬼だ。腹の底では何を考えているのか計り知れない」
音も立てず忍び寄るように歩み寄ってくる男の肩には、一匹の真っ白な蛇がとぐろを巻いていた。
さっきの変な威嚇の声は、きっとあの蛇の鳴き声だ。
それだけでも随分と個性的だけど、一番目を惹いたのは左右の違う色の瞳。
左目は落ち着いた黒目に近いけれど、右目は輝くような金色だ。
左右の目の色が違う人間なんて、初めて見た。
「蜜璃ちゃん…あれも、柱?」
「ええ。伊黒 小芭内(いぐろ おばない)さん。蛇柱なの」
蛇…柱?
そのまんまだ。
見た目通りのまんま。
そう言えば蜜璃ちゃんは確か、恋柱、だっけ。
…そのまんまだ。
「甘露寺が認めたとしても、俺はお前を認めていない。馴れ馴れしく甘露寺に近付くな」
静かだけど、忍び寄るようなねちりとした悪態。
吊り上がった瞳の視線が、私に突き刺さる。
なんだろう。
柱は皆、蜜璃ちゃんを除いて誰も友好的には近付いてこないから、当然の反応だけど…この男は個人的な思いが含まれてそうな気がする。
だって蜜璃ちゃんに近付くなって言った。
…もしや。
「……」
「なんだその目は挑発でもしているつもりか? ならば買うぞ頸を出せ」
「あっあっ駄目よ伊黒さん! 蛍ちゃんの命は、冨岡さんが預っているんだから…!」
「冨岡?」
思わず渋い顔で伊黒小芭内を見ていれば、腰の鞘を握って構えられる。
すぐに頸を斬り落とそうとするところ、あの不死川って柱と同じに物騒な感じがするけど、間に蜜璃ちゃんが入ればぴたりと止まった。
…やっぱり。
この男、もしや蜜璃ちゃんに気があるんじゃなかろうか。