第13章 鬼と豆まき《弐》
「よもや俺が余計なことを言った所為か…すまな」
「杏寿郎」
未だ仄かに顔に熱を残しながら、ようやくその目を杏寿郎に向ける。
謝罪が欲しいなどとは思っていない。
「私もね、持ってるよ」
「…持つ、とは」
「天元とかよく杏寿郎に悪絡みしてるけど、あんまり嫌な気はしない。男同士だし。蜜璃ちゃんも杏寿郎の継子だったって知ってるから、二人の距離感は師と弟子みたいで見ていてほんわかする。だから大丈夫」
安易に想像できる彼らの仲は、見ていて微笑ましいものだ。
しかし安易に想像できないその先は、考えただけでも暗くなる。
「でももし…杏寿郎の隣に、私の知らない女性がいたら。その人に、私の知らない顔で杏寿郎が笑いかけて、私の知らない愛称で呼び合ったりしていたら。そう思うと…胸の"ここ"のところが、もやつく」
先程の杏寿郎のように、己の胸にそっと手を当てて。
「杏寿郎が…好きだから。その心を尊重したいから、文句は…きっと、言わないけど。でも、見ると嫌だなぁって、思う。…やきもち、妬くと思う」
「やきもち?」
「うん。やきもち」
「…焼餅?」
「食べる方の餅じゃないからね。強いて言えば胸の中が焼き付いて、こうもちもちするというか…もちもち? いや違うな…」
「……」
「どちらかと言えばもやもや、ざわざわ、かな…うん。そっち。……杏寿郎?」
両目を大きく見開いたまま、こちらを見ているようで見ていない。
そんな呆気に取られているような杏寿郎の表情に頸を傾げれば、ぱちりとようやく目が合った。
「っ」
途端に杏寿郎の顔に熱が帯びる。
片手で口元を覆い、俯き加減に漏れた小さな「よもや」を、辛うじて蛍は聴き取った。
(わあ…)
その驚き様に、思わず目を見張る。