第5章 柱《弐》✔
「はぁ、さっぱりさっぱり♡ 煉獄さんにお礼を言わなきゃっ」
「うん。凄く気持ちよかった」
「でしょっ?」
丁寧に用意されていた代えの着物に身を包んで、名残惜しくもお風呂場を後にする。
蜜璃ちゃんとお揃いの着物を着て広い屋敷内を歩いていると、なんだか二人で旅館の温泉にでも来たみたいだ。
着物の柄は炎が舞うような模様だったけど。
流石、炎柱邸。
「いつか、蛍ちゃんを刀鍛冶さんの里に案内してあげたいわ。あそこには天然温泉があるのっ」
「…おんせん」
ごくりと息を呑む。
天然温泉なんて、入ったこともないし見たこともない。
でもあれだよね、自然の中で自然に出来たお風呂のことだよね?
…入ってみたい。
「ふふっ興味持ってくれた?」
私のそわる気配に気付いたのか、蜜璃ちゃんが嬉しそうに笑う。
そうすると彼女の纏う撫子色も、一層柔らかく栄える。
やっぱりとっても可憐な色だ。
「その、刀鍛冶って?」
「私達鬼殺隊の日輪刀をね、作ってくれる専門の鍛冶屋さん達なの」
にちりんとうって、確か、鬼殺隊が皆帯刀している刀のことだ。
少しだけ杏寿郎に教えてもらったことがある。
鬼の頸を斬る為には、普通の刀じゃ斬れない。
斬れたとしても、鬼を絶命させることはできない。
その為に特別に作られた刀だとか。隊士により色も形も様々らしい。
「日輪刀って、なんで太陽の名前が付いてるの?」
「それはね、太陽に一番近い山である陽光山の砂鉄と鉱石を使っ」
「シャアッ!」
色々と興味が湧いて思わず質問責めにしてしまう。
それでも快く教えてくれる蜜璃ちゃんとの会話は、突然の空気を切るような声で遮断された。
同時に殺意のようなものを感じて、思わずその場から飛び退く。
ジャリ、
砂利を踏む音。
此処は広い園庭が見える縁側の通路。
なのに園庭に人がいることに、謎の声がするまで気付かなかった。
「それ以上、鬼に無闇な情報は与えるな。甘露寺」
月の光に照らされて、見えた人影は一つだけ。
それは見たことのない男だった。