第13章 鬼と豆まき《弐》
「どうぞ」
「うむ! 頂こう!」
大量に掻いた汗をタオルで拭いながら、縁側に腰を下ろし蛍から渡された湯呑みを受け取る。
井戸の水か、十分に冷えたそれは喉に心地良く、あっという間に飲み干した。
「うまい! もう一杯貰えるか?」
「うん」
差し出された湯呑みを受け取る蛍も、爽やかな汗と笑顔の杏寿郎にくすりと笑う。
いつもまとめられている髪は下ろされ、見慣れた袴姿ではなく薄い浴衣姿。
普段とは違う蛍の姿に目を細めつつ、杏寿郎は冷えた水を再び喉に通した。
「それで、さっきのつまらないことって言った意味は?」
「ッぶフっ!?」
それも束の間。
笑顔で問われた言葉がぐさりと急所を突き、飲み干そうとしていた水を勢いよく噴き出した。
「げほ…っな、ん…のことだ?」
「はい惚けるの禁止。もう二回目だから。気の所為だって思わないからね」
「に、二回目?」
その射抜くような瞳の中に、燃える灯火を見たなどと告げても杏寿郎は理解しないだろう。
だからと言って見過ごすことはできない。
「…杏寿郎が止めた話題を繰り返すのも、悪いと思うけど…なんだか腑に落ちないから」
膝の上の指先を握り合わせながら、どう切り出すべきか。蛍は迷いを抱えながらも口を開いた。
「さっきの宴では、炎柱の継子なのに他の柱と話してばかりで立場を弁えていなかったと思う。すみませんでした」
「っそれは違う!」
「!?」
「あ、いや…違うんだ。そういう意味で言った訳じゃない」
杏寿郎の強い否定に、蛍の肩も跳ね上がる。
驚き見る表情に声を落としながら、杏寿郎は凛々しい眉を下げた。
「あれは宴の場だ。蛍が誰と楽しもうが、俺に指図する権利などない。だからつまらないことと言ったんだ。…本来あれは蛍に向けるべき言葉ではなかった」
「…でも…思ったことだから、口にしたんでしょ…?」
だからこそ知りたい、と願う蛍の気持ちは、その目を見ればわかった。
黙り込んでいた杏寿郎は、やがて観念したように肩を下げると大きく息を吐く。
「…そうだな。蛍の、言う通りだ」