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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第13章 鬼と豆まき《弐》



 どう頼もうとも、杏寿郎は蛍の鍛錬参加を許可しなかった。
 言われるがままに先に入浴を終え、次の日の朝食と昼食の準備も終え、こっそりと足を運んだのは炎柱邸の庭。
 道場の中ではなく月明かりの下で日輪刀を振る杏寿郎の姿を、襖の陰からこそりと覗く。


(竹刀じゃなくて日輪刀を振るうだなんて。よっぽど鍛錬したかったのかな…)


 蛍が入浴と料理を済ませている間も一心不乱に素振りをしていたのだろう。
 体中から噴き出した汗で、隊服の上着を脱いだ白いシャツ一枚も微かに透けて見える程だ。


「…杏寿郎」

「むん! むん!」

「き、杏寿郎っ」

「むん! むん!」

「杏寿郎ッ!!」

「む!?」


 襖の陰から出て声を張り上げれば、ようやく素振りをしていた手が止まる。
 余程集中していたのだろう。
 額に浮かぶ汗粒を片手で拭いながら、射抜くような目がこちらに向く。
 鞘に収まったままの日輪刀の先をとんと地面に着けて、杏寿郎はふぅと息を吐いた。


「あの、お湯、お先に頂きました」

「うむ! 報告などせずとも、そのまま休んで良しと言ったが?」

「でも…やっぱり見過ごせないし」


 頭を下げつつ、タオルと茶器を乗せたお盆を見えるように持ち上げる。


「水分補給もして下さい。じゃないと倒れる」

「心配無用だ! 自身の体調管理ならできる!!」

「っ…それでも!」


 常に笑顔を浮かべているが、有無言わさない言葉につい蛍の返事も強くなる。


「私が心配だから! 休んで下さいっ」

「…むぅ」


 更に頭を下げる蛍の気迫に、杏寿郎も張り上げていた声を止めた。
 そうまで言わせて断る訳にはいかない。


「…そうだな! では休むとしよう」

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