第13章 鬼と豆まき《弐》
「それで義勇さんがね、涼しい顔して食べるのにあんこを口周りに付けるばっかりで。意外だったけどなんだか見てて面白かった」
「そうか」
掌で繋がった影が二つ。
帰り道に弾む蛍の話に、いつものように杏寿郎も相槌を打つ。
日頃耳が痛くなるような大声で会話をすることが多い杏寿郎だが、聞き手に回ると時にこうして静かに言葉を拾ってくれる。
そんな二人だけの時に見せる杏寿郎の顔が、蛍は好きだった。
「不死川も義勇さんを見るとすぐ喧嘩腰になるのに、食べ方とか指摘する姿が世話焼いてるお兄ちゃんみたいで」
「ふむ」
「なんだかんだあの二人、喧嘩する程仲が良いって言うんじゃないかなぁって…」
「そうだな」
「…杏寿郎?」
「ん? なんだ?」
「…ううん」
しかしいつもと少し様子が違う。
どこか上の空のようにも聞こえる相槌に名を呼べば、その目はちゃんとこちらを見ている。
(気の所為かな…?)
内心頸を傾げつつ、そうだ、と話を切り替えるように蛍は思い出した光景を口にした。
「そういえば杏寿郎もご飯粒付けてたね」
「む?」
「恵方巻、食べてたでしょ。凄く長いの」
時期は違うが、節分を労い祝う宴だった。
故に小豆を使った料理以外にも、節分の定番である長い恵方巻も並んでいた。
それをうまいうまいと叫びながら食べるものだから、黙って食えと天元に突っ込まれていた杏寿郎。
その為、口周りに米粒を付けていた姿を見かけたことを思い出し蛍は笑った。
「楽しそうだったね、あれ」
「…見ていたのか」
「うん」
「なら何故、声をかけなかったんだ?」
「え?」
掌で影は繋がったまま。
唐突に問われた疑問に、面食らう。
「俺はあの時間を蛍とも楽しみたかった。見ていたなら、声をかけてくれれば良かっただろう?」
「え、と…」
ぐ、と繋がった手を握る杏寿郎に、力が入る。
「そんなに冨岡達の傍が良かったのか?」
「…ぇ…」
いつの間にか帰路を歩く足は止まっていた。
夏の訪れを感じさせる微かな虫の囁きだけが、聞こえる道の途中。
月明かりを背後に立つ杏寿郎の見開いた瞳の中に、いつもは見ない色を感じた。