第13章 鬼と豆まき《弐》
「むぅ…」
「大丈夫? 杏寿郎」
「ああ。宇髄に乗せられて少し飲み過ぎただけだ」
昼中行われた、音柱邸での宴の帰り道。
月の昇った夜道を二人、肩を並べて歩く。
酒に酔った姿など余り見かけたことのないものだと、蛍は珍しそうに呟いた。
「乗せられて? 自分からじゃなくて?」
「今日はいいと遠慮したんだが…」
「飲んじゃったんだ」
「…不甲斐ない」
額に指先を当てて小さく唸る姿は、酔いの為か反省の為か。
「少し休んでいく? 休憩所、近くにあったかな…」
「いや、いい。酔った訳じゃない」
「そうなの?」
「ああ」
眉間の指を離して顔を向ければ、心配そうに覗き込んでくる蛍の顔が月明かりに照らされている。
その姿につい目を細めた。
(寧ろ、酔えなかった)
無理矢理飲ませようとする天元に、仕方がないと最後は折れてお猪口を口にした。
それでもいつものようにほろ酔い気分になれなかったのは、どうにも気が散って仕方なかったからだ。
やけに近い距離で義勇や実弥達と絡む、蛍の姿に。
「じゃあ、はい」
「む?」
「支えがあった方が…その、歩くの楽になるかなって」
不意に差し出された掌。
幼子から普段通りの姿に戻ってはいるが、それでも杏寿郎からすれば細く小さな女性の手だ。
「ほら、私鬼だから。ちゃんと支えられるし。杏寿郎の継子だし、ね」
差し出したままの掌を手持ち無沙汰に振りながら、早口に告げる蛍の視線が逸れる。
照れ臭さもあるのだろう、そんな健気な弟子の姿に杏寿郎の表情も綻ぶ。
「ありがとう」
包むように、その手を取る。
「しかし今は継子としてではなく、一女性として蛍の手を握っていたいが」
「! そ、れは……私も、だけど…」
笑って告げれば、今度ははっきりと蛍の顔が朱色に染まった。
俯き加減にぽそぽそと告げられる声は、小さくとも確かに拾えた。
(嗚呼…いかんな)
そんな姿が堪らなく愛いと思う。
体の内側から溢れ出るような愛おしさ。
なのに同時に胸の奥をざわめく感情が垣間見えて。
「さあ、帰ろう」
小さな手の温もりを、促すように引いた。