第13章 鬼と豆まき《弐》
(長年連れ添った相手ならまだしも、つき合い始めの関係なら見過せねぇけどな。俺だったら)
くぴりとお猪口の日本酒を喉に通しながら、美味い美味いと目の前の饅頭を頬張る男を見やる。
蛍の影鬼の太陽光検証の案を持ち掛ければ、殺気さえ感じる程の圧で止めに入った男だ。
蛍を大切に想う気持ちに偽りはないはず。
(それともあれか、釣った魚には餌をやらない方か。煉獄の奴)
だとしたら納得もいく。
然程関わりのない他人にも何かと面倒見の良い性格だ。
その分、踏み込んだ相手にも他人と接する感覚が変わらないのかもしれない。
「つまんねぇの…」
折角、恋仲となった新しいネタでからかえると思ったものを。
退屈そうに呟きながら、それでもと目の前の男にも酒を向けた。
「ま、飲めや。折角の宴だしな」
「いや! 今日は遠慮しておく!」
「なんでだよ。飲めない口じゃねぇだろ?」
「酒に酔う気分ではないだけだ!」
「あ? なんだそれ──」
杏寿郎が二十歳を超えたと知ってからは、余計に遠慮なく酒を進めるようになった。
そもそもそんなにも美味しそうに食事をしながら気分ではないなどと。
酒の誘いを杏寿郎が断るのは仕事に関係する時だ。
何故断りを入れるのか、疑問視したそのいつものように見開いた目に光がないことに気付く。
「…煉獄?」
「なんだ!」
「お前、怒ってる?」
「怒ってなどいないぞ!」
「あ、そう」
笑ってはいる。
張りのある声もいつもの調子だ。
しかし見開いたような大きな瞳だけが、光を灯していない。
(こいつ目が笑ってねぇわ)
それなりの付き合いだからこそわかる。
果たして本人も気付いているのか否か。
それ程に些細な変化だったが、確かに見つけたいつもの彼とは違うところ。
「やっぱお前も人間だな、煉獄」
「? 俺は人間だが!」
「安心したわ」
「???」
労うように肩を叩き、しみじみと呟く天元に安堵の笑みが浮かぶ。
こうでなければ面白くはない。
「ま、飲め飲め」
「だから俺は飲まないと…」
「そういう時は酒に浸るのが一番だぞ」
「さっきから君の言ってる意味がわからないんだが!?」