第13章 鬼と豆まき《弐》
「あ、あの。もうイタイッ!」
「!?」
もういい、と告げようとした途端、スパン!と後頭部に走る衝撃。
無言で驚く義勇の前で頭を押さえて振り返れば、見開いた血走り目と目が合う。
「いきなりなに…ッ」
「そういうことは他所でやれェ。虫唾が走るわ」
鬱陶しそうに叩いた掌を翳したまま告げるは不死川実弥。
ムッとしたものの、やはりこのすぐ手が出る男よりは義勇の傍が安全だと、蛍は潔く実弥から背を向けた。
「ぎゆうさん、あっちにいこう」
「…隠れ蓑にしていたんじゃないのか」
「いいの。おはぎおとこより、ぎゆうさんのそばのほうがよっぽどあんぜン"ッ!」
先へと進もうとした足が日輪刀の鞘で払われ、ずだんと転ぶ。
「誰がおはぎ男だテメェ」
鼻の頭を押さえながら振り返れば、またもや中指を真上に立ててくる傷らだけの顔と鉢合う。
かちんと堪忍袋に障った蛍もとうとう身を隠すことを忘れて声を張り上げた。
「っこんの…ぼうりょくおはぎぐるいめ…!」
「はァ? つーか食べ物で貶してんじゃねェぞドチビ金魚がァ!」
「チビじゃないし! いまだけだし! きんぎょってなに!」
「金魚は金魚だそれくらい知らねェのか!?」
「なまえくらいしってるから! どこをどうみてきんぎょなんてイダ! いふぁい!」
「このぱくぱくよく開く憎たらしい口が金魚なんだよ!」
「不死川、そんなに口を引っ張ると伸び」
「テメェは口出しすんな冨岡ァ! 余計ムカつくわ!!!」
「おーおー、派手に騒いでんなァ」
「うむ! 元気があって何よりだ!」
「あれ見てそう思うかフツー?」
屋敷の隅で静かに小豆フルコースを満喫していたものを、結局騒ぎ立てて目立つ結果となっている実弥に、遠目で見ていた天元と杏寿郎が笑う。
苦笑いの天元に対し、快活な笑顔を見せる杏寿郎はいつもの顔だ。
酒を混じえて小豆料理に舌鼓を打っていた天元は、そんな杏寿郎に呆れた表情を向けた。
杏寿郎と蛍がただの師と継子の関係なら、その態度も納得はいく。
しかし二人が特別な関係であることは知っている。
自分が杏寿郎の立場なら、恋仲相手がああも雑に絡まれている様を笑って見過ごせはしないかもしれない。