第13章 鬼と豆まき《弐》
「あ、でも」
そこへ、ふと思い出したように声を上げる。
「わたし、ねずこのきばこいどうがうらやましかったわけじゃないから」
「?」
「あのきばこ、せまいしくらいし、ずっとおなじたいせいでいなきゃならないから、たいへんだった」
睡眠を糧としている禰豆子だからこそ、あんな狭い空間の中でも長時間寝ていられるのだろう。
蛍にすれば窮屈で息の詰まる空間だった。
常に不規則に揺れる為に安定せず、固い木の板に座り続けることは快適でもない。
改めて禰豆子の辛抱強さに感心した程だ。
「あのときうらやましがったのは、ぎゆうさんが…」
「…?」
「……」
「俺が、なんだ」
「…なんでもない」
自分の時とは違い、禰豆子にはいやに優しく見えた対応が羨ましかったなどと。
そんなこと言えやしない。
(禰豆子を守ってって、義勇さんに頼んだのは私だし。義勇さんは私と炭治郎との約束を守ってただけなのに)
よくよく考えれば羨望するのも可笑しな話だと、蛍は言葉の続きを呑み込んだ。
義勇は更に頸を傾げるも、それ以上の答えは貰えないと踏んだのか。追求はしなかったが、答えは自分で見つけ出した。
ああ、と頷くと徐に蛍の前で屈み込む。
「…ぎゆうさん?」
大きな手が触れたのは小さな蛍の頭。
ぽんぽんと撫でる動作は、子供をあやすように優しいものだ。
「禰豆子はこうすると喜ぶ」
どうやら義勇の中で、蛍が羨んだのは木箱ではなく禰豆子だと理解したらしい。
どこか斜めにずれた対応に、ぽかんと蛍の目も丸くなる。
「わたし、ちいさなこどもじゃないんだけど…」
「? 今は子供だろう」
「それはがいけんだけ、で…」
反論してみるも、見た目からしてもまるで子供が駄々を捏ねているように思えて語尾を萎めた。
変わらず頭を撫でてくる義勇の手は優しい。
先程より縮まった距離で見下ろしてくる顔は、凡そ子供をあやすような優しい表情は浮かべていないというのに。
(な、なんだか…恥ずかしい)
頬が勝手に熱くなる。