第13章 鬼と豆まき《弐》
「彩千代」
沈黙を作った蛍の頭上に唐突に降ってきた声。
頸を捻り実弥の背中から覗いた蛍は、その姿に「あ」と声を上げた。
「ぎゆうさん」
「煉獄の姿はあるのに、彩千代の姿が見当たらないと思ったら…其処で何をしてる」
「ええと…かくれみのというか…」
「隠れ蓑?」
「俺を都合の良い盾にするんじゃねェよ」
「たてじゃないよ。ばんけん?」
「余計悪いわ誰が番犬だコラ」
頸を傾げる義勇には取り繕うような笑みを、青筋を浮かべる実弥には真剣な真顔を。
そうして周りを様子見た蛍の目が、炭治郎達と楽しそうに賑わう蜜璃達を観察する。
下手に巻き込まれる心配も、もうないだろう。
(それに、義勇さんの傍の方がいいかも)
他の柱と積極的に関わろうとしない義勇の隣なら、面倒事に巻き込まれることもなさそうだと腰を上げる。
「ぎゆうさんも、あずきのおかしいただいてるの?」
「ああ…最初は参加しないつもりだったが…」
「……」
「……」
「?」
逸らした視線が一周したかと思えば、戻ってきた黒い眼は再び蛍を映した。
「彩千代の容態も気になったから足を運んだ」
「え…(それって…私の心配、してくれたってこと?)」
普段から言葉数の少ない義勇だが、それでも蛍にもなんとなしに意図は理解できた。
「だいじょうぶ、もうげんきだから」
弾みそうになる声を抑えて実弥の背中から抜け出す。
目の前で見上げた義勇の片手には、お汁粉の入ったお椀。
自分を理由にしようとも、宴に自ら参加している姿になんだか嬉しくなる。
「ぎゆうさんも、おにやくおつかれさま。いろいろとてだすけしてくれてありがとう」
「大したことはしていない。鬼としての務めを果たしただけだ」
「うん(義勇さんなら、そう言うと思った)」
それでもその存在があったからこそ、幾度となく無一郎に「鬼は所詮鬼だ」と言われても挫けずに済んだ。
嬉しいものは嬉しいし、感謝したいものは感謝したい。
自然と蛍の表情も緩む。