第13章 鬼と豆まき《弐》
「ひめじまさんといるよ。ほら、あそこ」
一際離れた広間の端。
行冥と共に訪れていた玄弥を指差して告げるも、実弥の目は向くことはない。
「言っただろォが。お前の姉貴はお前の姉貴。…俺の弟は俺の弟だ」
「だったら」
「今の玄弥を認めるとは言ったが、馴れ合うとは言ってねェ。あいつを鬼殺隊(ここ)に置いておく気はねェんだよ」
もし馴れ合ってしまえば、玄弥のこと。兄と共に鬼狩りの使命を全うしようとするだろう。
それでは意味がない。
「あいつの幸せを決めるのは確かにあいつ自身だ。だがその道の望みすら俺が断ち切ってちゃあ意味がねェ」
鬼殺隊にいる限り死は常に隣り合わせとなる。
玄弥にそんな道を望んではいないのだ。
「だから玄弥に余計なことは一切言うんじゃねェぞ。これは俺とあいつの問題だァ」
「そののぞむしあわせのなかに、しなずがわはなんでいっしょにいないの?」
「俺は柱だ。鬼とは切っても切れねェ。俺の道が修羅だからこそ、あいつの道を平和にできる」
「じゃあ…しなずがわのしあわせは?」
残りのおはぎの欠片を口に放り込むと、実弥は一人高い広間の天井を目で仰いだ。
「玄弥が笑ってりゃ、それが幸せだ」
「……」
ただ待っていてくれるだけでよかった。
変わらない笑顔で、いつものように出迎えてくれるだけでよかった。
おかえりと呼ぶ声。
偽りの名ではない、本当の名で呼んでくれる人。
『ねぇさん、だいすき』
『あら…私もよ。可愛い蛍ちゃんが、世界で一番大好きで、世界で一番大切よ』
『わたしも! ねぇさんがいちばん!』
『ふふ。じゃあ両想いなのねぇ』
世界で一番、愛おしい人がいる。
それだけでどんな道でも歩み続けることができる。
偶にしか会えなくても、虚無の日々を過ごすことになっても。
それだけで幸せだったのだ。
「…そうだね」
それを蛍も痛い程に知っていたからこそ。
向けられたのは、消え入るような相槌だけ。