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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第13章 鬼と豆まき《弐》



「かくまってください」


 蛍が身を隠した所は、屋敷の隅で座り込んでいた実弥の背中だった。
 外見は強面、中身も時に粗暴である彼の傍なら、下手に人も寄って来ないだろうと踏んだ結果だ。

 体操座りのまま見上げる蛍の要望に、ひくりと実弥の口元が引き攣る。


「鬼なら鬼らしく退治されて来いやァ」

「たいじいわな…あ。」

「あ?」

「おはぎたべてる」

「っ」


 その手にはしっかりと宇髄家特性のこし餡おはぎが握られていた。
 目敏く見つけた蛍に、ふいと実弥の顔が逸らされる。


「やっぱりすきなんだ、おはぎ」

「るせェないちいち…人の好みに突っ込むんじゃねェよ」

「ってことはやっぱりすきなんだ」

「テメ…」


 否定なしとは肯定のことである。
 痛いところ突かれて尚のこと口元を引き攣らせつつ、反論も馬鹿らしいと溜息混じりに実弥はおはぎを口にした。
 食べ物に罪はない。


「お前も好きだろォが」

「?」

「落としても拾って食うくらいには」


 告げる実弥の目は、広間の賑わう人々に向いたまま。
 ぼそりと告げられた言葉に蛍は口を閉じた。

 影鬼の中で巡った記憶は実弥だけが体感していた訳ではない。
 今一度思い起こすように蛍の中を蝕んだ柚霧の過去は、本人の記憶にも残っていた。


「…わたしは、つぶあんがすき」


 背中合わせに座り込んだまま。
 不意にぽつりと蛍が零す。


「ねえさんは、こしあんがすきだった」

「……」

「あじのしみぐあいだとか、したざわりだとか、どっちがどういいだなんて。そういうなんでもないことを、よくねえさんといいあってた。…だからおはぎをたべるの、すきだったんだ」


 体操座りで足元を見ていた赤い目が上がる。
 一層賑やかな声へ誘われるように目を向ければ、其処には炭治郎達の輪に入る蜜璃と禰豆子が見えた。
 デレデレとした笑顔で出迎える善逸越しに見えた、とある青年の三白眼。
 こちらを気にしていたのか、じっと見ていた目が蛍と合うと慌てて逸らされる。


「…げんやくんに、はなしかけないの?」


 自分はもう話したくても話せない。
 しかし実弥は違う。
 おはぎの何が良いだなんて、下らない話だってできるのだ。

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