第13章 鬼と豆まき《弐》
思わず身構える。
(……あれ?)
しかし覚悟していた強い圧迫は感じない。
不安しかなかったはずの少女の腕の中は、予想外にも安定していた。
蛍の尻と背に腕を添えて抱き上げる禰豆子の手は、蜜璃の勢いある抱擁と違って優しい。
「ムゥ♪」
(もしかして…抱っこ慣れ、してるのかな)
ぽんぽんと背を撫でる手には子をあやすような意図が垣間見える。
思わずまじまじと目の前の顔を見れば、にこにこと笑顔を向けてくる少女には眩いものを感じた。
(そうだ、禰豆子なら)
どうすべきかと思い悩んでいた思考は、目の前の純粋無垢な少女に一つの道を見つけた。
「ねずこ」
「?」
「ねずこもわたしとおなじおにだから、ちいさくなれるよね? ほら、ちいさくなぁれ。ちいさく、ちいさく」
「ム…」
小さな手が、促すようにぽむぽむと禰豆子の頭を撫でる。
暫くその動作を観察していた禰豆子だったが、言葉は理解していたのか。やがてその背丈が、するすると魔法のように縮んでいった。
「わあ…っ禰豆子ちゃんも可愛い!」
感嘆の声を上げる蜜璃の前で、蛍と同じ年頃へと変貌した禰豆子。
その幼い腕では蛍を抱き上げておくこともできず自然と蛍の足は床へと着く。
ほっと安堵の息をつきながら、蛍は一歩禰豆子から距離を取った。
蜜璃は蛍の幼少姿には慣れていても、禰豆子の幼少姿には慣れていないはずだ。
となれば。
「更に可愛い~!♡」
「ムっ」
案の定、小さな禰豆子を抱き上げ頬擦りする蜜璃。
その時を見計らっていた。
「じゃあわたしもうたげたのしんでくるからっねずこ、あとよろしく!」
「ム!?」
「あっ蛍ちゃん!」
同じ鬼であっても純粋無垢な少女なら、小芭内も下手に敵意は向けられないだろう。
そう踏んだ蛍の身代わり作戦。
多少胸は痛むが、蜜璃の腕の中で満更でもない顔をしている禰豆子を見れば、逃げ出す足も軽くなる。
「こ、ここならあんぜんか…」
ようやく一息つける場所を見つけて、隠れるように小さな体を尚の事丸くして座り込んだ。
「何が安全だァ何が」
そんな小さな鬼を、ぬっと覗き込む傷だらけの脅迫顔が一つ。