第13章 鬼と豆まき《弐》
「みつりちゃ…っ」
「やっぱり小さな蛍ちゃんは一段と可愛い!」
「いや、あのっ」
「昨日は鬼役お疲れ様!」
「むねがウぷッ」
「最後は吃驚したけど蛍ちゃんが元気で良かったわ!」
「みつ」
「また来年も節分楽しみましょうね!」
「すごくあまい!!」
「え?」
きゃあきゃあと笑顔で蛍を抱きしめる蜜璃に、どうにか胸に埋まっていた顔を上げて蛍が主張する。
甘いと告げた言葉にようやく草色の目が弾みを止めた。
「みつりちゃん、すごくあまいにおいがする」
「それはきっと、さっきまで宇髄さんちの小豆蒸しパンを食べていた所為ね。あれ凄く美味しくって! そうだっドーナツは私が作ったのよっ」
「どーなつ?」
「西洋のお菓子なの。私、パンケーキと同じで大好きで。ほらあそこで伊黒さんが持っているのが」
「うわあ」
「わあ?」
「あいえなんでも」
離れた場所でドーナツなる穴の空いた揚げ物を手にして座っている小芭内の目は、ぎらぎらと蛇のように光り蛍を睨んでいる。
蜜璃の腕の中から何度も見た光景だ。
見慣れてはいるが、だからと言って蛇の毒牙にはかかりたくない。
「ムゥ!」
「あら?」
毒牙にかかる前に、どうやってこの力強い腕の中から抜け出すべきか。考え込んでいると蜜璃より低い頭がずいと寄ってきた。
「禰豆子ちゃん」
「ムゥうっ」
蛍を見つけて寄ってきたのか。大きな桜色の瞳が、何故かきらきらとこちらを見て輝いている。
両手を伸ばしせがむ様は玩具を欲しがる子供のようだ。
「禰豆子ちゃんも蛍ちゃんを抱っこしたいの?」
「え。」
「ム!」
「そっかぁ、可愛いものね。はい♡」
「え!?」
蜜璃の腕の中から解放されたかと思えば、休む間もなく禰豆子の腕の中へと移る。
相手は無垢な鬼の少女。
力任せに抱き締められれば、小さな体は簡単に潰れてしまうだろう。
「ま、まってねずこ…っ」
思わず冷や汗を流し、待ったをかける。
しかし細い腕にひょいと簡単に抱かれた体は、すとんとその腕の中に納まってしまった。