第13章 鬼と豆まき《弐》
「ようやく来たね」
「蛍ちゃん、こんにちは!」
「容態は如何ですか?」
陽の光を通さない木箱の中は真っ暗闇。
ゴトリと固い地面に置かれた感覚がしたかと思えば、ようやく明るい光が差し込んだ。
開いた扉の先。
最初に出迎えたのは宇髄家の三人の嫁達。
つい先日顔を合わせたばかりだというのに、余り会話も交わさなかった所為か。久しぶりに感じる面子に蛍も顔を綻ばせた。
「だいじょうぶです。きょうはおさそいありがとうございます」
「当然のことだよ。蛍は鬼役だったからね」
「そうそう! 一日、お疲れ様でしたっ」
「じゃあ…ねずこも?」
「勿論、呼んでありますよ。わたくし達の屋敷にも限りがあるので、一隊士の皆様には隊舎へ配る形で、この場には毎年柱の皆様だけ招いていますが…禰豆子さんと、兄である炭治郎さんも」
「ついでに二人ついて来たけどね。なんだか煩いのが」
「うるさいの?」
見渡す限りの大広間。
其処ですぐさま蛍は、まきをの言葉を理解した。
「小豆が大ぶりでホクホクだ! 美味しいなぁ!…って食べないのか? 善逸」
「よく食べられるな炭治郎…これ、節分で使った大豆だぞ…」
「? ああ、知ってるぞ」
「知ってて食べてるのか!? しのぶさんが麻痺毒注入した大豆見てたのに!?」
「それは流石に除いてるだろう。ほら、伊之助だって」
「あンまッ!? なんだこのクソ甘い泥水は…!」
一際目立つたんぽぽ頭と猪頭。
炭治郎と共に、お汁粉の入った大きなお椀を手にしている。
彼ら以外にも、一隊士であろうカナヲやアオイ達も見受けられるところ柱と親しい者は同席しているようだ。
「うむ! もう皆勢揃いしていたのか!」
「お前らが最後だよ。だから俺様直々に出迎えてやったんだ」
「すごい、あまいにおいがじゅうまんしてる…」
お汁粉だけではない。
おはぎに、蒸しパン、揚げもの、ドーナツ、饅頭、様々な大豆を使った和洋折衷の馳走が並ぶ様に、蛍は興味深く呟いた。
「しらないたべものもある」
「それは甘露寺様が」
「あー! ちっさな蛍ちゃん見っけぇ!」
「!?」
雛鶴の声を遮り伸びてきた両手が、たちまちに蛍を抱き上げた。