第13章 鬼と豆まき《弐》
「ちったぁマシなこと言ったかと思えば。最後の最後で締まらねぇな、こいつは」
「うむ! まだまだ精進せねば!」
「う…そ、そんなにはっきりダメだししなくても…」
「閉めるよ頭引っ込めて」
『いたい!』
これまた無一郎の手でバシンと勢い良く閉じられた扉に、額をぶつけた蛍の虚しい悲鳴が小さな箱の中で木霊する。
そんな蛍にお構いなしに、木箱を背負った杏寿郎が、これで終いとばかりに笑顔で告げた。
「それでは、我らはこれにて失礼致します!」
「うん。宴、楽しんでおいで」
「御意!」
一礼して産屋敷邸から去る彼らの姿を見送る耀哉の目は、愛しい子供達を見るかのように優しい。
「……」
同じくじっと見送る輝利哉の幼い瞳が、ふと小瓶を持つ自身の手に移る。
微かに聞こえた謝罪と感謝。
それは確かに、この飴玉の為に血を流した者が誰であるかを、鬼は知っていた。
「興味が出たかい? 蛍に」
父の声にはっとする。
振り返れば、視力のない瞳はまるで輝利哉の表情を読み取っているかのように微笑んでいた。
「輝利哉にとっても、この鬼殺隊にとっても、蛍は今後の鬼舞辻無惨討伐の為に欠かせない情報源だ。しっかりと視ておくといい」
「…はい」
蛍とは、数える程度にしか顔を見合わせたことはなかった。
そのどれも、付き添う輝利哉より、父である現当主の耀哉しか相手は意識していなかっただろう。
そんな赤い瞳が、初めて輝利哉を個として捉えた。
そこに鬼に囚われたような恐怖は一切感じなった。
鋭利な爪を持つ手も、幼子のものだったからだろうか。
唐突に握られた時は驚いたが、輝利哉の皮膚を傷付けることも強い力で潰されることもなかった。
(手…温かかった)
鬼のことは幼い頃から学ばされ、下手な隊士よりも深く理解している。
最終選別での案内役として、実際に藤襲山で生け捕りにされてある鬼を見たこともある。
それでも触れたことはなかった。
人の手と等しく、温かさを感じた鬼の手。
それは輝利哉にとって初めての経験となった。