第13章 鬼と豆まき《弐》
「…理由を訊いてもいいかな?」
何故、と疑問は問い掛けず。静かに促す耀哉に、蛍の目が再び小瓶へと向く。
「たしかにこのちが、きがをおさえてくれるなら、たすかります。にちじょうてきに、ひとからちをもらわなくてもよくなる。…でもわたしがきがをおさえられたのは、ちをもらったからだけじゃない」
生きる気力を失いかけた蛍に、己を認めてから死を選べと云った義勇。
新たな血を取り込むことを怖がっていた蛍に、他者を信じる一歩を踏み出させた杏寿郎。
血肉を喰らう鬼となることを拒絶した蛍に、現実を睨んで支配しろと諭した実弥。
ただ血を啜ったからだけではない。
飢餓を抑え込み前を向くことができたのは、傍らに彼らがいたからだ。
「おにとしてではなく…ひととして、ひとをみることができた。おおげさかもしれないけど、そのけっかだとおもっています」
輝利哉越しに耀哉を見上げる蛍の目は、視力のない瞳と重なる。
何も言わずに静かに見下ろしてくる瞳に、蛍は自信なさげに声を漏らした。
「そ…それに、こんなかんたんにちをほきゅうできたら…なれてしまう、きがして。ひとの、ちをのむことに。それはちょっといやかな、というか…わたしがもらっているものは、だれかのいのちのみなもとだってことを、わすれたら、いけないというか…かんたんにしちゃ、だめなきがして…」
「素晴らしいことだね」
「え?」
もたもたと言い訳のように続ける蛍を、遮って。
じっと小さな鬼を見下ろしていた耀哉の口元に、深い微笑みが生まれた。
「確かに、他者との絆で繋いでいる人としての感情を、ただの血の塊では補えない」
普段から笑みの耐えない耀哉だったが、蛍を称賛する顔には高揚さえ感じる。
「蛍自身が見出した結果だということが、本当に素晴らしいことだよ。ただの鬼なら決してできない」
「そ、そんなたいそうなことでも…それに…」
そこまで絶賛されるものとは思っていなかった。
むず痒くなるような感覚に頸を竦めながら、言い難そうに蛍の目線が床へと落ちる。
「それだと…いままでどおり、はしらからちをもらわないと…いけない、し…」