第13章 鬼と豆まき《弐》
「どうぞ、受け取って下さい」
幼さを残しながらも、はきはきと落ち着いた声で告げる輝利哉から、差し出された小瓶を受け取る。
「これは…?」
押し込む形の蓋がされた透明な小瓶の中には、ルビーのように煌めく赤い玉が幾つも入っていた。
「なんてことはない、飴玉だよ」
「あめだま」
「ただし成分は血液だけどね」
その言葉に驚いたのは蛍だけではなかった。
周りにいた柱達の目も、蛍の持つ小瓶へと向く。
「血液を硬める為に少し細工をしているからね。直接血を飲むより効果は薄れるかもしれないけど、その場凌ぎにはなるかもしれない。試験的なものだけれど、蛍に渡しておこう。飢餓を抑える手助けになるように」
小さな両手で受け取った小瓶の中の、飴玉にしては大玉サイズのそれをじっと見る。
「…あけても、いいですか?」
「食べてみるかい?」
「いえ。いまはだいじょうぶです…においだけ、かいでみたくて」
「どうぞ」
頷く耀哉に、固く閉められた蓋をきゅぽんと開ける。
小瓶に鼻を近付け嗅いでみれば、甘い血の匂いがほんのりと鼻をくすぐる。
生身の血の匂いに比べれば、随分と薄い匂いだ。
これなら常に持ち歩いていても、正常時なら血の匂いに惑わされることはないだろう。
飢餓症状が出る度に、誰かの血を貰わなくて良くなる。
意図的に誰かに血を流して貰わなくて良くなる。
それは蛍にとっても望むことだった。
「……」
蓋を閉めて、再びじっと小瓶を見つめる。
やがてその手は、そっと小瓶を自身から離した。
「ありがとうございます。でも、いただけません」
向けた先は、目の前の輝利哉へ。
驚いたのは産屋敷の者達だけではなかった。
当主と蛍との間に口を挟むことはしないが、杏寿郎も天元も疑問の色を浮かべている。
蛍の性格を知っているからこそ、受け取るものとばかり思っていた。