第13章 鬼と豆まき《弐》
「どうした? 入りたかったんじゃないのか?」
「義勇さんにはそういう意味で言った訳じゃ…」
「? だが今はまだ陽も高い。傘で歩くよりは、箱の方が楽だと思うが」
「うん。嫌な訳じゃないの。ないんだけど…」
木箱からちらりと上がった蛍の視線が、見たのは杏寿郎ではなく。
「これ…誰が運ぶの? 天元?」
「お前本当そういう顔するよな」
だとしたら終わりだとでも言いたげな目で見たのは、木箱を運んできた天元。
「だって凄い揺れそう。忍者だし」
「元忍者だつってんだろその耳機能してんのか? わざとかお前」
「わざとです」
「ハッキリ言えばいいってもんじゃねぇからな!」
「落ち着け宇髄! 安心しろ蛍!! 責任を持って俺が運ぶ!!!」
「いやお前が落ち着けうるっせぇ…」
ずいと二人の間に割って入った杏寿郎が、むんと胸を張って笑う。
「杏寿郎が?」
「ああ!」
「じゃ入る」
「おい待て鬼娘」
「天元と杏寿郎なら迷わず杏寿郎。ということで待ちません」
「本っ当に懐かない猫だなお前…!」
天元の声など右から左。
とでも言いたげに、さっさと体を縮めて幼子となった蛍が木箱の扉を開ける。
仔猫のような小さな背中を鷲掴んでやろうかとも思ったが、ここで揉めては到着が遅くなる。
蛍に会いたがっているのは蜜璃や禰豆子だけではない。
三人の嫁達も蛍を待っているのだ。
三人の嫁を何よりも優先する天元だからこそ、舌打ちはしたものの小さな懐かない猫の反発だと思い留めた。
「蛍」
箱を覗き込んでいた蛍を、やんわりとした口調で止めた別の声が一つ。
蛍が振り返れば、見えない瞳がこちらを向いていた。
「今回の節分は鬼の敗北。褒美をあげられないのは残念だけど、一つだけ」
「?」
「これは前々から蛍に、渡そうと思っていたんだ」
懐から耀哉が取り出したのは一つの小瓶だった。
それを手渡されたのは、耀哉の娘達とよく似た顔の少年。
五つ子の中で唯一の男児である少年の名は産屋敷 輝利哉(うぶやしき きりや)といった。
産屋敷家の長男であり、次期鬼殺隊当主となる者だ。