第13章 鬼と豆まき《弐》
「節分つっても、その後の宴みたいなもんだ」
「宴?」
「毎年、豆撒きで使用した大豆で大量のお汁粉が作られる! 宇髄の奥方達と女性隊士達で、いつもそれを振る舞ってくれるのだ!」
「! やっぱりあの大豆、おしるこになってたんだっ」
「お前は食えねぇだろうが、だからって誘わない理由にはならねぇだろ。甘露寺や竈門禰豆子も会いたがってたしな」
お汁粉と聞いた途端、蛍の顔色が変わる。
久方ぶりにも感じる蛍の元気な笑顔に、トンと木箱に手を置いて天元も笑った。
「節分時は鬼が悪役だが、終われば労い組だ。勿論お前らも来いよ」
「俺は別に…まぁ、いいですけど」
「お。いい返事するようになったじゃねぇか」
一度断る素振りを見せたものの、何か思いとどまる節があったのか。
頷く無一郎は、日頃の彼を知っている者からすれば珍しい姿だ。
「なんにでも興味ないって顔したお前が珍しいな。何か心境の変化でもあったのか?」
「…西瓜が、美味しかったから?」
「スイカぁ? なんだそりゃ」
ぽけ、とした表情で応える無一郎に、その意味を悟ったのは蛍だけ。
それ以上話そうとしない無一郎を追求することもなく、天元は残りの柱に目を止めた。
「まぁいいか。勿論お前も行くよな? 不死川」
「行かねェ」
「おはぎもあるぞ! 不死川!」
「行かねェつってんだろ! 話聞いてんのかお前らァ!」
「お前が断ることなんて想定済なんだよ。オラ行くぞ」
「はァ!? 勝手に決めん」
「今回お前も労い組だからな」
「なん」
「蛍を救い出してくれただろう! 師として感謝している!」
「…ッ」
二人の柱に呑まれたのか、その事実には反論できなかったのか。押し黙る実弥の背後から、くすりと柔らかな笑い声が一つ。
「楽しそうだね」
「! お館様…」
「いいじゃないか、実弥。折角なんだし、君も楽しんでおいで」
鬼殺隊の当主に促されてしまえば、断るにも断れない。
部屋の奥から娘に手を添えられて現れた耀哉は、それを知ってか、柔らかな表情で笑っていた。
「うし、お館様の了承も得たし。行くか!」
「うむ! 蛍、箱の中へ!」
「……」
「蛍?」
しかし動かない足が、もう一つ。