第13章 鬼と豆まき《弐》
感謝を述べた理由は、先程の報告会にある。
影鬼の内部で何があったのか、詳細を知っているのは実弥だけだ。
しかしその口から耀哉に報告されたのは必要最低限のことだけだった。
蛍が女郎であった過去も、姉に毒を盛る加担になってしまっていたことも、実弥は口にしなかった。
蛍にとって触れられたくない、抱えた闇の奥底。
それを実弥は巧みに隠し、現時点で必要な情報だけを耀哉に提供した。
その内容を、天元達がいるこの場で伝えることはできない。
握っていた袖を離すと、蛍は控えめにだけ笑った。
「…いいのか? 煉獄」
「蛍と柱達が歩み寄れているということだろう? 良い傾向だ!」
そんな蛍と実弥の様子に、ぼそりと隣に天元が突っ込みを入れる。
威勢の良い顔と声で返す杏寿郎はいつものものだ。
「あ、そう」と半ばつまらなさそうに溜息をつくと、天元は背負っていたものを縁側に置いた。
「んじゃ帰るとしますかね。蛍」
「何…ってそれ、禰豆子?」
「正確には竈門禰豆子の木箱"のみ"だ。許可貰って借りてきた」
「なんで?」
「なんでってお前、これに入りたかったんだろ? 冨岡が言ってたぞ」
思い当たる節はある。
しかしそれは純粋に禰豆子の木箱に憧れた訳ではなく、禰豆子に甘い義勇に羨ましさを感じただけだ。
どうやら義勇には、木箱への羨望と取られていたらしい。
「その特注服なら日光の下も歩けるだろうが、一応病み上がりってことで。俺様の配慮だ、あり難く使え」
「成程、この為に出迎えに来ていたのだな!」
「そーいうこと」
「待って、出迎えって。炎柱邸に帰るんでしょ? なんでわざわざ天元が…」
「言ってなかったか? これからうちで節分やるから、嫁達がお前呼べってさ」
「へ?…節分?」
節分はもう終わったのではないのか。
意味がわからないと頸を傾げる蛍に、ニィと天元の口元が弧を描く。