第5章 柱《弐》✔
「髪の毛の色も、力が強いのも、人一倍食べる癖も、全部私なのに。私は私じゃないフリをするの?って。結婚はできるかもしれないけれど、偽った私を迎えた人と添い遂げてこのまま一生生きていくつもりなの?って。一度疑問に思ってしまえば、その疑問は頭から離れなくなっちゃったの」
「……」
「私が私のままできること、人の役に立てることはあるんじゃないかしら。私のままの私でいられる場所が、この世の何処かにあるんじゃないかしら。私のままの私を好きになってくれる人が、この世の何処かにいるんじゃないかしら。そんなことを考え出すと、周りの世界が可笑しなものだと思うようになってしまって。だから探すことにしたの。私のままの私を受け入れてくれる世界と、好きになってくれる人を」
胸を焼いた小さな妬みのような思いは、もう消えていた。
私のように足元ばかり見て周りを妬むんじゃない。
自分に自信を持って前に進められるから、蜜璃ちゃんはきっとこんなに綺麗なんだ。
「私が認められる場所はお館様のお陰で見つけられたけど、まだ伴侶となる殿方は見つけられていなくて。だから捜し中なのよっ」
再び顔を赤くして、水面をぱしゃぱしゃと跳ねさせる。
そんな蜜璃ちゃんが、本当にどうしようもなく可愛いと思った。
私のことを鬼としても受け入れてくれていたのは、他人を妬む思いを持たないからだけじゃない。
「此処では皆が私のことを認めてくれて、鬼から守った人達は私にお礼を言ってくれるの。柱になってどんどん強くなることを最初は怖がってたけど、また人間じゃないみたいに言われるんじゃないかって思ってたけど、そんなことは一つもなくて。だから今でも十分、幸せなんだけれどね」
蜜璃ちゃん自身が、"そういう目"を向けられたことがあったから。
だから最初から、鬼である私に偏見なんて持っていなかったんだ。
「…蜜璃ちゃんのその髪、とっても綺麗だなって思う」
「え? そ、そうかなっ」
どう返せばいいのか。
上手い返しなんて思い付かなくて、出たのはそんなありきたりな褒め言葉。
それでも、本当に蜜璃ちゃんの鮮やかな髪色は綺麗だと思った。
他の誰にも染まらない、蜜璃ちゃんだけの色だ。
「こ、この髪はね、前に大好きな桜餅を食べ過ぎちゃって、こんな色になっちゃったの」
「…なんと」