第5章 柱《弐》✔
「でもでも蛍ちゃんの思い過ごしかも…っ本当は恋してるけど、認めたくなくて」
「何その葛藤! 幸せそうだね!」
そんな思考でいられたらどんなに幸せか。
でも生憎、そんなお花畑な心境じゃない。
「じゃあ違うの?」
「はい」
「全く?」
「はい」
大きく頷けば、力を失くした蜜璃ちゃんが湯船に沈む。
あ、大丈夫?
「同じだと思ったのに…」
「同じ?」
何が? 誰と?
問えば、力無く蜜璃ちゃんが自身を指差した。
…蜜璃ちゃん自身と?
「蜜璃ちゃん、誰かに恋してるの?」
恋に恋する肌質なら、自然なことだと思うけど。
でも返ってきたのは予想を反する答えだった。
「そ、そうじゃなくて…その…」
「違うの?」
「それはこれから作る予定、というか…その…」
「?」
これから?
「私…添い遂げる殿方を捜してる途中なのっ」
きゃっと可愛らしい悲鳴のような声を上げて、顔を赤くした蜜璃ちゃんがぱしゃりと水面を揺らした。
添い遂げる…殿方?
それって恋人というより、人生の伴侶ってこと?
「伴侶捜しってこと?」
「そう。私ね。その殿方を捜す為に柱になったのよ」
「……え?」
今なんて…え?
「柱には強い人がなるものでしょう? 女の子なら、自分より強い人に守ってもらいたいじゃない。蛍ちゃんならわかるでしょっ?」
ええと…うん…わからなくもない、けど…その…うん。
「同じ柱同士なら、接点も多くなるし出会いの場になると思ったの! だから柱になったのよっ」
そう、なんだ…。
蜜璃ちゃんが強い女の子なことはわかってたけど、だから自分より強い男性を求める為に柱になったんだ…。
「……」
なんだろう…恋に恋する肌質なのは知っていた。
蜜璃ちゃんに悪気がないのもわかってる。
なのに、ただその場に存在することだけでも何かにしがみ付いて必死にならないといけない私と、伴侶捜しと自身の幸せを見つける為に柱として生きている蜜璃ちゃん。
他人を羨んだって、どうしようもならない。
それでも、やっぱり生まれた時点で人は落差を付けられるものなんだと再確認したような気持ちだった。
人と鬼とじゃ、その時点で平等でもないのかもしれないけれど。