第5章 柱《弐》✔
「冨岡さんはきっと、蛍ちゃんが呼吸法を身に付けることでそれを悪用しないか見張っていると思うの。その役目が自分にはあるって言っていたもの」
「悪用…」
…そっか…そうだよね。
鬼に鬼殺隊の技を教えるんだから、そこの線引きには注意を払わなきゃいけない。
私の命を預かっているんだし、当然のことだ。
じゃあ毎回訓練終わりの私を迎えに来ていたのも、その監視をしていたからだ。
私を見ていたんじゃなく、私の動向を見ていたんだ。
「……」
そっか、そうだよね…。
考えればすぐにわかったことだ。
なんでこんなに勘繰ってしまったんだろう。
答えを聞けば、あっさりと納得できたのに。
なんだかあっさりと拍子抜けした心が、行き場を失った。
…私は何か、期待でもしていたんだろうか。
「だから…口枷を付けてろって、言ったんだ…」
「え?」
やっぱりあれは話しかけるなって、そういう意味だったんだ。
口を開くなって。
「……」
「蛍ちゃん…もしかして、」
思わず沈黙を作れば、ちゃぷりとお湯が跳ねる。
顔を寄せた蜜璃ちゃんが、気遣うようにして口を開いた。
「冨岡さんが気になるの?」
…………ん?
「もしかして…冨岡さんの言葉に胸がきゅんってしたり、姿を見ただけでドキドキしたり…っ」
……んん?
「もしかしてもしかして、冨岡さんに恋しちゃったりしてる!?」
んんんんー!?
「ぃ、ぃゃ、そうじゃな」
「人と鬼との恋なんて! なんだか禁断な感じがして素敵ね!」
駄目だ、また聞いてない!
でもこればっかりは右から左には流せない。
そりゃ蜜璃ちゃんみたいに恋に恋できたら人生楽しそうだなぁとは思ったけど!
いいなぁなんて羨んだけど!
でも違うから。
そんな飛躍し過ぎたところまでいかないから。
どうせ恋をするなら、姉さんみたいに朗らかな笑顔が似合う人がいい!
「いつからその想いに気付い」
「待って違う! 色々と違う! 恋なんてしてない!」
「えぇえ…!! そうなの!?」
わ、ドン底に突き落としてしまったような壮絶な反応をされた。
そ、そんなに残念なこと?