第5章 柱《弐》✔
そしてその理由は、お風呂の心地良さだけじゃない。
鬼である私の前で臆せず裸になってつき合ってくれてる、この蜜璃ちゃんのお陰でもある。
「蜜璃ちゃんと一緒に入れて、よかった」
そう笑顔を返せば、蜜璃ちゃんの眉が八の字に…なんで八の字?
そんな哀しいこと言ったっけ?
「そんな…相手は女の子なのにっ」
あ、哀しい顔じゃなかった。
どうやら胸きゅんしたらしい。
豊満な胸の前で拳を握って耐える仕草は、もう見慣れたもの。
蜜璃ちゃんって、恋に恋する肌質なんだろうなぁきっと。
…私もそんなふうになってみたい。
そしたら少しは楽しく生きられそうな気がする。
「でも私も嬉しいわ。だって蛍ちゃんとこんなふうに沢山お話できるようになったんだもの」
未だ照れつつ笑顔を向けてくれる蜜璃ちゃんは、出会った当初から何も変わっていない。
最初から私に善良で、寛大で、大きな愛を向けてくれていた。
そんな蜜璃ちゃんだから、杏寿郎の次にすぐ打ち解けられたんだろう。
「やっぱり蛍ちゃんは口枷がない方が可愛いわねっ」
花咲くように明るく笑う蜜璃ちゃんにつられて笑顔は溢れるけど、私の枷はなくなった訳じゃない。
「これからも沢山お話しましょ!」
「…うん」
杏寿郎の屋敷内でなら、話はできる。
でも一歩外に出れば…それはきっと叶わない。
彼に、叱られる。
「どうしたの? なんだか元気がないようだけど…」
「…蜜璃ちゃんは、知ってる?」
「? 何を?」
同じ柱なら、知っているかもしれない。
毎回訪れるあの重い沈黙に打開策を見つけたくて、気付けば問い掛けていた。
「…冨岡…義勇の、私に対する"役目"が…なんなのか」
私のことを屍みたいだと杏寿郎に話したらしいけど…なんでだろう。
直接的に目は合わないのに、私のことは見ている。
真意が何もわからないから、間に生まれる沈黙も重たいまま。
知れば、少しは軽くなるのかな。
「冨岡さんの役目? それって毎回迎えに来てくれる、あの役目のこと?」
一つ頷いて返す。
すると蜜璃ちゃんは、ああと思い出すように水面を揺らした。