第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「それよりこっちの鬼共を頼むわ。煉獄がやられちまった」
「!」
「俺も一度危ういところまでいった。下手すりゃ冨岡より手強いかもな。なんたって相手は二鬼だ」
「…上等だァ」
杏寿郎が敗北したことで実弥の目つきが変わった。
ボキリと自身の拳の骨を鳴らしながら向かってくる実弥に、途端に蛍は鬼面の下で青褪める。
「煉獄の仇は任せたわ。代わりに冨岡の頸取ってきてやるよ」
「何勝手なことしちゃってくれてるの…!? 嫌だよ不死川だなんて!」
「ァあ? お前に指名権なんてねェんだよ。次は俺の相手をしやがれ」
「えええ…時透くん、次お願い」
「嫌だよ。元々俺は鬼が勝とうが負けようが興味ないし。それに不死川さんは君を見てるみたいだけど」
「えええ…! もう体力残ってないよ!」
「鬼のお前ならすぐ回復すんだろ。じゃあな、頑張れよ!」
「待っ…! こんの下衆忍者ー!!」
ぱちんと爽やかにウインクを残して義勇の下へと去る天元に、虚しく蛍の悲鳴だけが響く。
「煉獄を負かすとはなァ…やっぱ鬼の芽は早くに摘んでおくべきだった」
「いや…これ、節分…ただの行事だから…」
杏寿郎が放り捨てていた竹刀を拾い上げると、手首の捻りだけで一回転させる。
ひゅんと回った竹刀から、ふわりと生まれた風はただの空気の揺れではない。
シィィ、と実弥の口から呼吸の息が鳴る。
「お前の頸は俺が捩じ切ってやる」
「──てことで今度は俺の相手頼むぜ」
「……」
じっと無言で蛍達を見守っていた義勇だったが、目の前に立ち塞がるように現れる天元には僅かに眉を潜めた。
「どうした、俺が相手じゃ不満か?」
「…わざわざ分断させる理由がわからない。面倒ならまとめて来ればいいだろう。まとめて俺が相手をする」
「へえ。蛍と時透を庇う為か」
「……」
「お前はだんまりが常だし、口を開いたら開いたで意味不明なこと口走るし。よくわかんねぇ奴だと思ってたが、一つだけわかったことがある」
「?」
「蛍が関係すると嘘みたいに饒舌になるよな」
ぴくりと微かに義勇の目元が反応を見せる。
それだけで十分だった。
やはりと天元は笑う。