第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「え。何それ」
「成程、札を変化で隠していたのだな!」
「えええ…っやっぱり忍術ずるい!」
うわあ、とドン引きの顔をする無一郎。
天晴れと笑顔で頷く杏寿郎。
やんやと抗議する蛍を一蹴するように、天元は己の頭を指差し笑う。
「頭の使い方がお前らと違うだけだ」
「うわあ…腹立つ」
「俺、本当に鬼だったら宇髄さんとは戦いたくないかも」
「どういう意味だァそりゃ」
「しかし宇髄、日暮れも間近だ。急がねばな!」
「それならあっちも急がねぇと」
天元の目が蛍越しの後方を見る。
其処には激しい衝突を繰り返す風と水があった。
「洒落臭ぇ!」
拳で殴り掛かる実弥に、受ける義勇もまた竹刀で戦ってはいない。
その手に握られてはいたが、根本から無残に引き千切れていた。
実弥の竹刀もまたズタズタに引き裂かれた状態で地面に転がっている。
二人の戦闘の激しさを物語るようだ。
「不死川! 交代だ!!」
そこへ誰もが予想しなかったことを天元は告げた。
「お前と冨岡じゃ何日も戦り合うだろ! 埒が明かねぇ、交代しろ!」
「え。おっかな柱がこっち来るの? え、嫌だ…」
「ふむ! 確かに以前あの二人が手合わせをした時は、三日三晩戦り合っても勝敗は決まらなかったな…!」
「えええどんだけなの…!」
「確か、悲鳴嶼さんが止めるまで続いたんでしたっけ?」
「あの時はなんだったか…鎹鴉の怪我で発展した手合わせじゃなかったか?」
「鎹鴉の怪我?」
「うむ! 冨岡の鴉が不死川の鴉と衝突事故を起こしてな! あれでいて冨岡の鴉は老鳥だ、進路を見誤った結果だろう!」
(そういえば話してくれたっけ、そんなこと…)
天元達の話に興味を持ちつつ、蛍もようやく衝突を止めた義勇と実弥を見やる。
「鴉の怪我で喧嘩になるなんざ、あんな顔して案外二人共動物思いっつーかな」
「外からごちゃごちゃ煩ぇなァ。伝達役に必要不可欠だろうが…それを不良にされたら怒りもんすんだろォ」
「ハイハイ。兎に角、代われよ。俺が冨岡の相手をする。お前じゃ日暮れ前までにゃ無理だ」
「ア?」
ぴきりと額の血管を浮かせる実弥に、天元は見慣れたものだと涼しい顔。