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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第12章 鬼と豆まき《壱》✔



「時透くん!」

「え。何」

「勝ったよ私…!」

「見ればわかるよ。紛れだろうけど」

「時透くんが譲ってくれたお陰で杏寿郎に勝てた!」

「俺は別に何も…って何!?」

「やったー!!」

「わかってるから! くっ付かないでよ暑苦しい!」


 走り込みの報告がてら歓喜の余りに飛び付く蛍に、喚く無一郎は珍しくも焦り顔。


「おーおー、嬉しそうなことだな」

「あそこまで喜ばれると、こちらとしても清々しい敗北だ…!」

「なんだ煉獄。お前わざと負けたのか?」

「まさか。俺も倒す気で相手をした。この勝利は蛍の実力だ」


 二人の色鬼を見守る杏寿郎には、言葉通りの清々しい笑顔が浮かんでいる。
 真正面からぶつかり合って受けた敗北。
 そこには今まで培ってきた蛍の努力と成果が見えた。
 だからこそ笑顔も浮かぶというものだ。


「ま、お前がそうならいいけどよ」


 傍観に徹していた天元が、その言葉と同時に動いた。
 元々行冥と張れる程の筋肉質な体をしているが、腕や足のそれが更に膨張する。
 ぐ、と力を入れて踏ん張った足は、まるでトリモチから引き離すように地面から離れた。


「っ!」


 その異変に一番に気付いたのは術者の蛍だ。
 影鬼から伝わった気配に、拘束を自ら解いた天元に警戒の顔を向ける。


「安心しろ。仇は取ってやる」

「君は木札を奪われなかったのか?」

「見ての通りよ」


 天元の足元には大量の忍具が転がっていた。
 クナイや手裏剣、起爆札に煙幕弾。
 こんもりと山ができる程のそれは全て無一郎が天元の体を漁り見つけ出したものだ。
 その中に木札の存在はない。


「あの人、あの体にどれだけ忍ばせてるのって程、道具を持ってたんだよね…それ以外は見つけられなかった」

「え、天元木札持ってないの? 何処かに隠したの?」

「お前じゃあるまいし、そんな卑怯なことはしねーよ」

「…む」


 実践稽古で真っ先に命の代替えである風鈴を隠したことを思い出す。
 顔を顰める蛍に飄々と笑うと、天元は自由の身で足元の手裏剣を一つ手にした。

 掌の上でくるりと回せば、ぼんっと音を立てて手裏剣が姿を変える。
 そこには紛うことなき命の札が乗っていた。

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