第12章 鬼と豆まき《壱》✔
九人の中で一番最後に柱と成った無一郎だったが、その中で最初に距離を詰めてきたのは杏寿郎だったと言っても過言ではない。
柱に任命されたばかりの頃、一番に挨拶に来てくれたのが彼だった。
きりりと太い眉を上げ、よく通る、通り過ぎる大声で言葉を交してきたことをよく憶えている。
始まりの呼吸の子孫であることを尊敬し、同じ柱として共に頑張ろうと告げた言葉には一切の裏などなく。
それが伝わったからこそ、変な男だとは思ったが嫌悪は感じなかった。
「真面目な奴だからな。鬼の滅却を楽しんだりしないが、あいつも根っからの戦士気質。よく笑ってる奴だが、ありゃ本気で笑ってやがんな」
「…なら到底勝ち目はないですね」
「そうか?」
「相手は熟練の柱。付け焼き刃の鬼が敵う相手じゃない」
「じゃあなんで俺は此処で見学なんざさせられてるよ」
初めて無一郎の目が、丸く見開き天元を捉えた。
その目を見返し「ムカつくけどな」と付け加えた天元がニッと砕けて笑う。
「何が起きるかわかんねぇから、笑っちまう程面白いんだろ」
「…面白い…?」
戦闘が面白いなどと思ったことはない。
それは鬼殺隊の行事である節分も同じこと。
それでも不思議と天元のその言葉の感情はわかるような気がした。
ほんの少しだが、見てみたいと思えた。
激しい戦闘を交える蛍が行き付く先を。
「……」
「お、どうした時透。お前も少しは興味を──ってオイ。何してんだ」
「何って。俺、鬼ですから」
ぽんと拳を掌に打ったかと思えば、動けない天元に近付き我が物顔で懐を漁る。
取り出したのはクナイや手裏剣。
探しているのは命の札だ。
ぽいぽいと興味なくそれらを捨てていきながら、ずぼりとズボンのポケットに今度は手を突っ込んだ。
「宇髄さん、木札は何処ですか」
「言う訳ねーだろ。見つけたけりゃ自分で探せ」
「面倒臭いなぁもう…」
「オイ。一応言っておくが、俺お前より目上だからな? 年齢も経歴も!」