第12章 鬼と豆まき《壱》✔
あれは年の瀬に行った柱会の最中。
実弥の血液を口に含んでしまったが故に、蛍が暴走しかけた時だ。
好戦的に煽る実弥に、四つん這いになり背中を膨らませていた蛍は獲物に飛び掛る獣の如く。
間一髪それを止めたのが杏寿郎と義勇だった。
(つまりこれは無意識の戦法。故に規則性がないのか)
先程同様、攻撃の隙間にカウンターは喰らわせているはずだ。
なのに先程より手応えを感じないのは、蛍が避けようとする素振りを見せないからだ。
杏寿郎の拳を受けても攻撃に徹する姿は、一種の恐怖さえ感じる。
「攻撃は最大の防御と言うが全くその通りだな…!」
「…グル」
腹を鳴らすような微かな唸り声。
そこに蛍の理性は残っているのか不安要素も感じるが、確認している暇はない。
(否! 倒してしまえば問題はない!)
杏寿郎の口角が微かに上がる。
師として蛍を育てることにも一種の喜びを見出していたが、そこにはなかった緊迫感。
ぞくぞくと体を走る高揚が火を付けた。
「鬼に渡す札などない…! 俺を倒したくばその手で捻じ伏せてみせろ!!」
札や面など、そんな命の代替えは必要ない。
拳と拳で決着を付けようと叫ぶ杏寿郎に、その声は届いているのかいないのか。
躊躇なく切り掛かる蛍に、杏寿郎も拳一つで迎え撃った。
「あーあ。煉獄の奴、火ィ付いたな」
「火?」
「見ろよ、すっげ楽しそうだろ。ありゃ蛍を完膚無きまでに潰すだろうな…俺も戦りてぇ」
「…煉獄さんって、そういう人でしたっけ」
蛍に拘束されている為、動けない天元が二人の激闘を傍観しつつ羨ましく呟く。
天元のその好戦的な性格は無一郎も知っていたが、こと杏寿郎については意外だった。
距離は保ちつつ、蛍と繋がっている管が邪魔しない場所で無一郎も珍しげに見守る。
「あいつは無意識の二面性を持ってる奴だからな」
「無意識…ですか」
「表裏がない奴だろ。良くも悪くも真っ直ぐで、だからこそ柱としての非情な決断もできるし、反面情にも熱く人望も持てる」
(言われてみれば、確かに)