第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「まさか…ッ」
「気付きました?」
あっさりと手を離し、両膝に手を付いて立ち上がる。
無一郎の手が次に触れたのは、自身の腕に繋がっている長いゴム管だった。
「俺とあの鬼は繋がっているんです。つまり俺とあの鬼の影も繋がっているということ」
茜色に染まる夕日に照らされた、濃い影。
蛍の足場の影から繋がる管の細い影。
それはやがて無一郎の足場まで繋がり、一つの影と成っている。
「お前、選手交代とか言っておいて嵌めやがったな…!」
「作戦を考えついたのはあの鬼ですから。矛先はあっちに向けて下さい」
「おい蛍!」
「うわっ」
天元の罵倒に、驚いた蛍が振り返る。
しかしぽりぽりと罅の入った鬼面を指先で掻く様に反省の色はなく。
「えーっと…文句を言うなら、油断した自分にどうぞ」
「てめ…っ」
ひらひらと片手を振る姿に、ぴきりと天元の額に青筋が浮く。
それでも体の自由は利かない。
「んっとに面倒だなこの影はよ…!」
「っ時透くん、天元から札を取って! 長くは保たない!」
しのぶや蜜璃の動きを止めた時とは明らかに違う。
影から伝わってくるびりびりとした静電気のような感覚は、天元が抗おうとしている所為か。
長くは動きを封じていられないと悟った蛍が叫べば、何故か無一郎は天元の懐に手を伸ばさなかった。
両手で掴んだのはゴム管。
「わっ!?」
「む…!」
無一郎に引っ張られた体が後方へと傾き、間一髪避けたのは杏寿郎の振るった竹刀。
「まさかそんな方法で宇髄の動きを封じるとはな…! 狡賢い!が、見事な作戦だ!」
「宇髄さんより先に煉獄さんだ! 気を抜くな!」
「でも今は天元に影使ってるから…!」
一度に何人もの鬼殺隊達の動きを封じていた影鬼だが、今は天元一人を捕えるのに精一杯で杏寿郎には使えない。
「だったら己の体で来い!」
迎え撃つと言わんばかりに笑う杏寿郎からは、肌を突き刺す程の圧を感じる。
迷った時間は、ほんの一秒にも満たなかった。
すぐに体制を整えた蛍が、拳を握り杏寿郎へと向かう。
「(真正面から向かったって勝ち目なんて…!)全く!」
舌を打つと同時に、無一郎も後を追い駆け出した。