第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「へぇ。次はお前が相手してくれんの? 珍しい」
「何言ってるんですか、俺は鬼ですよ。当然です」
「ようやく認めたか」
「今日だけです」
優に体格差のある二人だが、リーチ差はクナイである天元に対し竹刀を使う無一郎の方が大きい。
それでようやく釣り合いが取れているようにも見える二人の間で、常人には見えない速さの斬撃がぶつかり合った。
「大丈夫か? 蛍」
「う、うん…」
その激闘を視界の隅で把握しながら、杏寿郎はのそのそと小さな体を起こす蛍を伺った。
ゆっくりと体の大きさを元に戻していきながら顔を上げた鬼面には、明らかに先程の衝突が原因であろう亀裂が増えている。
「すまない、受け止めてやれなくて」
「ううん…杏寿郎は、隊士だから。鬼を受け止めたら、駄目だよ」
未だふらふらと回る頭に片手をついて、どうにか落ち着かせようと深呼吸をする。
その様子をじっと見守る杏寿郎に、ふらついていた蛍の鬼面が動きを止めた。
顔を上げてじっと杏寿郎を見る。
「……」
「…?」
「……」
「…なんだ?」
「いや…なんでトドメ、刺さないのかなって」
今の蛍の状態ならば容易く倒すことができるはず。
なのに決め手を仕掛けないことを不思議そうに問い掛ける蛍に、そんなことかと杏寿郎は胸を張って笑った。
「やるなら正々堂々だ。蛍が元気になったら相手をしよう!」
「…何、それ」
ぱちりと鬼面の下で目を瞬いて、くすくすと小さな声で笑う。
「本当、杏寿郎らしいなぁそれ」
「そうか?」
「うん」
先程よりは調子の良さそうな蛍の声に、つられて杏寿郎も笑みを深める。
「だけど私は正々堂々じゃないかも」
「む?」
それも一瞬の間だけ。
次の言葉に、今度は杏寿郎が目を瞬く番だった。