第12章 鬼と豆まき《壱》✔
爆破回避の道を先に走る蛍の頭上に、白い煙の中から落ちてくる影が一つ。
起爆札が付いたクナイか、煙幕弾か。
頭を反らして避けようとした蛍に、影が揺らいだ。
クナイや煙幕弾とは違う動きに悪寒が走る。
しかし前方に走り込んでいた体は急な停止ができない。
「っ…!」
同じく僅かなその変化を見切った無一郎が、咄嗟に後ろから蛍の足を蹴り払った。
「ッた…!」
思い切り尻餅を着いた蛍の真上で、ゴウッと燃え上がる業火。
先程まで二人を襲っていた爆破とは規模が違う。
ばきんと蛍の鬼面の太い角が根本から折れた。
否、刃物による切断である。
「むぅ! よもや避けられるとは!」
「き…杏寿郎…」
尻餅を着いたままの蛍の目前に着地する。
突如白い煙幕の中から現れたのは、炎を纏いし男だった。
その炎は起爆札とは違い、煙幕を吹き飛ばすことはしない。
実際に存在する炎ではなく幻覚として視えるものだからだ。
柱による呼吸技である。
「今のは蛍自身の回避ではなく、時透の機転のお陰だな。協力し合うことは良いことだ!」
うむうむと感心するように頷く杏寿郎からは殺気など感じない。
「しかし次はないぞ」
「! 待っ…」
その姿を再確認する暇もなく、煙幕の中に溶け込むように消え入る。
姿を消すと共に、ふっと気配も消えるのだ。
見事としか言い様のない気配断ちに、蛍は震えた。
「え…これ杏寿郎もいるの…」
「言ったでしょさっき」
「あの爆撃の中、杏寿郎も襲ってくるの?」
「そうだよ。一度で理解してくれる?」
「ただでさえ視界の悪いこの煙幕の中でっ?」
「わかってるからいい加減その煩い口を閉じて」
蛍が困惑する気持ちもわからなくはない。
ただでさえ天元の攻撃を掻い潜るので精一杯な中、同等の腕前を持つ者が攻撃に加わるとなれば、蛍達には絶望しかない。
「でもなんで煉獄さんも俺達の居場所がわかったんだろう」
「言ってる場合じゃ…またきた!」
身を跳ね起こす蛍の目に、雨のように降り注ぐクナイ。
そのどれもに起爆札が取り付けられている。