第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「…鈴?」
「うわ…もうやめて欲しいんだけど」
この祠のある広間を囲っていた鈴の音を思い出すようだ。
ちりん、ちりんと重なる音が一つ二つと増えていく。
訝しげに辺りを見渡す無一郎とは違い、明らかな拒絶反応を見せている蛍には未だあの恐怖は根付いている。
その恐怖を振り払うかのように、蛍は一歩踏み出した。
「怖がらせる為にやってるならもう無意味で──」
「伏せて!」
「っ!?」
蛍の頭を鷲掴んだ無一郎が無理矢理に下げる。
ボン!と音を立てて頭上の空気が揺れた。
「えっ何? 爆撃…!?」
それは小規模な爆発だった。
蛍の頭があった場所が爆破で煙を払っている。
小さな爆破でも、頭に命中すれば吹き飛ばすだけの殺傷能力はあるものだ。
「ちょっと待ってあれ完全に殺る気できてない…?」
「君は頭吹き飛ばしても死なないでしょ?」
「だからって…!」
「大声出さないで。場所が特定される」
慌てて両手で口を覆って、蛍が沈黙を作る。
二人の間でちりんちりんと鳴り続けている鈴の音は、一斉に鳴り響いていた先程の鈴の悲鳴に比べれば儚げなものだ。
しかし止まない鈴の音に不気味さを感じる。
ヒュッと風を切る音。
飛んできたクナイが、今度は狙ったように二人の間を通る。
ボンッ!
二度目の爆発は二人の間を通過する直前に起きた。
一度目の爆発で予感していた為に互いに身を退けたが、避ける行動を取っていなければ小規模な爆発でも巻き込まれていただろう。
「クナイに起爆札…宇髄さんか」
「だからその忍具狡いってば…っ」
「だから声を抑えて(なんで居場所がわかるんだ?)」
「抑えてたって天元には見破られてるよ。すぐ次がくる」
「なんで…」
「理由はわからないけど、とにかく逃げてっ」
白い煙幕の中で、四方八方。
次々と狙ったように飛んでくる起爆札を相手に、蛍と無一郎は回避で精一杯だった。
爆発が小規模だからこそ助けられたが、これが大きな爆発であれば逃げ場はなかっただろう。
起爆札と共に煙幕弾も放っているのか、視界の悪い白い世界は晴れてくれない。