第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「太刀筋が強いな! 流石は時透だ!」
「っ」
小手、胴、面、足。
あらゆる方角から打ち込まれる太刀を受け流すも、無一郎の足は前へと進めずにいた。
打ち込むことは許しても踏み込むことは許さない杏寿郎の間合いには、入り込むことができない。
「一人で俺に挑んできたということは勝算あってのことか!?」
しかし杏寿郎も歩みを止めると、それ以上の迎撃を唐突に止めた。
「それとも俺と宇髄を分断させることが狙いか!」
ぼふんっと大きな音を立てて視界の隅で煙幕が上がる。
無一郎の目に、もくもくと上がる大きな白い煙に包まれる蛍が見えた。
「生憎だが、君達の思い通りにはさせられない」
蛍と無一郎の距離は、管を限界まで伸ばして十数m程。
その距離を煙幕は易々と乗り越え手を伸ばしてくる。
「複数の鬼を相手にする場合、一度に叩くことが何より効果的だ」
その腕に捕らえんとするかのように、煙幕は杏寿郎と無一郎をも呑み込んだ。
(っ…駄目だ、何も見えない)
白い世界。
視界を遮られ、杏寿郎との距離感を測ることができない。
しかし人影はすぐさま目の前に現れた。
「ッ時透くん…っ?」
それはつい先程まで傍にいた杏寿郎ではなかった。
守備体制に入ったまま打撃を受けたのか、両腕を胸の前で交差させて覚束無い足取りの蛍が、目の前によろけてくる。
「宇髄さんは?」
「交戦中。というか全く姿が見えないから捕まえられなくて…」
「…どうやら俺達を一度に叩くつもりらしいね」
「杏寿郎もいるの?」
「この中だよ」
現状を把握しつつ互いに背と背を合わせて身構える。
何処から狙われるかもわからない状態では、安易に動けない。
──ちりん
緊張が走る中、二人の耳が捉えたもの。
それは聞き覚えのある音だった。