第5章 柱《弐》✔
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「私は煉獄さんの継子時代に、何度か使わせて貰ったことがあるの」
そう言って嬉々として手を引く蜜璃ちゃんに案内されて、連れて来られた屋敷の奥。
「…わ…あ…」
目の前に広がる光景に、思わず感嘆の溜息が零れた。
其処にあったのは予想していたよりも遥かに大きなお風呂場だった。
何人も入れそうな長方形の木目の浴槽に、周りには足場が痛くないようにきちんと簀子が隙間なく敷いてある。
そして何よりも驚いたのが、水槽と体を洗う場に、それぞれ蛇口が付いていること。
お家に蛇口が付いているなんて!
杏寿郎は凄くお金持ちなんじゃないのかな。
「あれ、あそこからお湯が出るの?」
「そうそう。カランがあれば、わざわざ火を焚かなくてもいいし。便利よね」
便利なんてものじゃない。
あれ一つあれば、入浴も料理もなんでも手間が掛からない。
入口からそわそわとお風呂場を期待に満ちた目で覗いていれば、隣で蜜璃ちゃんがくすくすと笑う。
「ふふっ蛍ちゃん、なんだか小さな子供みたいで可愛いっ」
「え?…へ、変、かな…お家のお風呂場、初めてで…」
「そうなの?」
頷いて見せれば、蜜璃ちゃんの大きな瞳が更に丸く大きくなった。
そんなに、驚くことかな。
「蛍ちゃんのお家にはなかったの? お風呂」
「うん。お風呂の代わりにお湯を沸かして、そこに手拭いを浸して体を拭いてたから」
「え…それ、いつも?」
「? うん」
「ええっ!?」
私にとって当然の感覚だったから、そのまま伝えれば更に蜜璃ちゃんの目が丸く大きく見開いた。
「女の子が一度も湯船に入ったことがないなんて…!」
一度も、とは言ってないかな流石に。
銭湯くらいなら、姉さんに何度か連れて行ってもら
「ダメよそんなの! 蛍ちゃん可愛いんだから! 体を清潔にして髪も綺麗に梳かしたら、もっと可愛くなるはずだから!」
…駄目だ、聞く姿勢じゃない。
そして蜜璃ちゃんの勢いに圧される。
忍者も言っていたけど、蜜璃ちゃんの"可愛い"は合言葉みたいなものだよね、もう。