第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「その影こそ狡いよな。触れれば即詰み」
(声はするのに、気配はない?)
「だが今までの手数で、お前の影の限界範囲は見切った。それさえ越えなけりゃ捕まることもない」
ヒュッと風を切る音。
微かな音に反射的に体制を反らせば、何処からともなく飛んできたクナイが鬼面すれすれを横切る。
ほんの数mmずれていれば鬼面を砕いていただろう。
煙幕が立ち込めている中にいれば日光からは守られるかもしれないが、同時に視覚も奪う。
(そうか、だから私の居場所がわかるんだ…!)
影鬼の限界距離を知っていれば、その間際まで詰めれば中心部にいる蛍の居場所を知ることができる。
互いに視覚が使えない中、影鬼が使える自分の方が有利だと思っていたが逆だった。
深い森の中で何度も天元とは組手を交えてきた。
絡み合う木々に、突如発生する雨や風や霧。
常に視界の悪い環境でこそ力を発揮できるのが、忍という生き物。
(っ…駄目だ、無闇に影を伸ばせない)
「なんだなんだ、もう使わねぇのか?」
自分の居場所を教えているようなものだと、広げていた影鬼を足元の影のみに戻す。
やはりその間際で距離を測っていた天元にはすぐに見破られた。
「影がなけりゃあ拳で十分だな」
「っ! ぅぐッ!?」
ぞわりと背後に悪寒。
咄嗟に体を捻り受け身の体制を取れば、拳が脇腹の急所目掛けて打ち込まれた。
倒れることは阻止したものの、飛ばされた体が地面を削り流される。
「これじゃあいつもやってる組手訓練と変わらねぇじゃねぇか」
ぱん、と掌に拳を打ち付けて、白い煙幕の中。
まるで対峙する蛍が鮮明に見えているかのように天元は笑いかけた。
「それじゃ面白くねぇだろ?」