第12章 鬼と豆まき《壱》✔
前のめりに倒れかけた体は地に伏せなかった。
縺(もつ)れた足はそのままに、蛍の体を支えたのは別のもの。
「と、時透くん?」
後ろから強い力で引っ張られ、仰け反った視界に無一郎の顔が映る。
「君が倒れる度に俺の足も引っ張られるから。それ以上無様に転ばないで」
背中の着物を掴み転倒を阻止した無一郎が素っ気なく告げる。
その手は強い力で引き上げると、蛍の体を杏寿郎から引き離した。
「そういうお前も後ろが空いてんぞ!」
無一郎の背後を取った天元がクナイで青鬼の面に狙いを定める。
僅かに体を逸し、最小限の動きで天元の攻撃を避けると、竹刀の鍔で受け止める。
2mある男と対峙したまま無一郎は足を踏ん張った。
「へぇ」
相手は無一郎よりも上背も筋力も異なる大男。
それを蛍の着物を離すことなく、腕一本で受け止めた無一郎に天元の口元が緩む。
「やるな」
「これくらい…っ俺だって柱です」
力と力が押し合って、反発し合うように離れた。
「わ、わっ!?」
そのまま蛍の背を引っ張り、急いで二人から距離を取る。
「あ、ありがとう」
「そんなこと言う暇があったらあっちに集中して」
「あ、ハイ」
怒涛の攻撃は仕掛けてくるが、時折こうして蛍達が様子を見る暇も与えてくれる。
余裕か、甘えか。
それでもその僅かな時間は、蛍達にとって息を整える為には貴重なものだった。
「協力してくれるの?」
「鬼と共倒れなんて嫌だから。仕方なくだよ」
「…わかった」
それでも心身共にバラバラに相手をしていては到底勝てない二人の柱。
頼みの義勇は、怒りも滲んだような実弥の攻撃を受けては流しては、加勢に来られる様子はない。
目の前の柱二人を、蛍と無一郎で相手にするしかなかった。
「とにかくあの二人を一緒にしたら駄目だ。どうにか引き離さないと」
「隙のない連携をどうやって止めるつもり? あの二人は胡蝶さんや甘露寺さんより強いよ」
「……一つだけ」
声を沈めて、蛍はじっと腕に繋がれた管を見下ろした。
「私に考えが、ある」