第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「なんで俺まで…」
蜜璃戦とは違い、回避だけでは無事で済まないのが炎柱と音柱との戦闘。
蛍までとはいかずとも無一郎も無傷ではいられなかった。
杏寿郎が振るう竹刀により腕や足に傷が生まれている。
「"なんで"? そんな餓鬼みたいな言い分、通らねぇのが戦場だぜ時透」
「これは戦場じゃなく節分で」
「ある前に、鬼殺隊として鬼と向き合う時どうあるべきか。己の真意と向き合う為の行事だろう!?」
天元と杏寿郎の意見は、肩は違えど中身は同じだ。
無一郎よりも長く柱として戦ってきた彼らの言葉は、蛍の言葉とは違う響きを持つ。
何も返せず沈黙する無一郎に、蛍は感心気味に二人の柱を見つめた。
「男なら、柱なら、すべきことをしろ!」
「わざわざ待ってやる程、俺らは甘くねぇぞ!」
竹刀を構える杏寿郎に、天元も忍具であるクナイを構える。
本物のクナイとは違い、鋭い刃先は付いていない。
しかし鉄の塊であるそれで打撃を受ければ痣もできる。
「くるよ」
「…はぁ」
身構える蛍に、無一郎も溜息と共に二人へと目を向けた。
先に踏み込んだのは杏寿郎だ。
強烈な存在感を放つ杏寿郎には、いやでも気が向く。
そこに巨体を音もなく詰めた天元が懐に飛び込んでくる。
(っまた!)
ひたすら回避ばかりを取らされる状態に、蛍は苦虫を噛んだ。
二人の戦闘法は言うなれば"隙間を埋める"もの。
竹刀を使い正攻法の戦闘を行う杏寿郎に、縦横無尽に飛び交う天元はその隙間から攻撃を繰り出す。
かと言って天元に気を取られれば、死角から杏寿郎の突きが入るのだ。
パズルのピースのように、ぴたりとはまる二人の戦術には隙がない。
休む暇もなく繰り出される攻撃の数々に、蛍は瞬く間に疲労していった。
「は…ッ」
「どうした蛍! 息が乱れているぞ!」
「ッ…!」
「それでは我らから札を一枚も奪えはしない!!」
次々と打ち込まれる竹刀の一打を紙一重で避けるも、呼吸が乱れれば歩幅も乱れる。
「一本!」
「つぅ!」
パァン!と高い音を立てて腰を打ち込まれ、またも体制を崩し地面に倒れかけた。
「!?」
ぐりん、と視界が回ったのはその時。