第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「天元様、勝つかなぁ…」
「勝つかどうかじゃなく、勝つと信じるの! それがあたし達の役目でしょ!」
「そっそんなに怒鳴らなくても…! 雛鶴さぁん! まきをさんが怖い!」
「二人共、静かにっ」
口論が絶えない須磨とまきをを雛鶴が制す。
宇髄家で日常的に見かける光景は林の中で行われていた。
三人につられてか、雛鶴が傍に置いていた木箱の内側からカリカリと音が鳴る。
「わぁあ!? 鬼の子が動いてるー!!」
「鬼なんだから動いて当たり前でしょ! 騒ぐな馬鹿須磨!!」
「まきをも煩いわよ、声を抑えてッ」
慌てふためく須磨を押さえ付けるまきをに、ガリガリと激しさを増す木箱に慌てて雛鶴も扉が開かないよう押さえ付けた。
「彼女が怖がるから!!」
鶴の一声ならぬ雛鶴の一声。
ぴたりと止まる須磨とまきをに、引っ掻き音も小さく鳴り変わる。
溜息とも安堵とも取れない息をついて、雛鶴は木箱の木目を撫でた。
箱から伸びる管は長く、義勇の下まで続いている。
「この子もきっと蛍さんが心配なのよ。不安を煽らないで」
「蛍ちゃんが…?」
「そういやあの場で戦り合ってるのは蛍を除いて皆柱だ…心配もするかも」
三人の目が夕日の照らす広間へと向く。
くノ一の目でも辛うじて捉えられる程、戦闘の激しさは増していた。
「とにかく見守りましょう」
「六!」
「ぐぅッ」
高々と告げる天元に、強打された蛍の体が地面に転がる。
すぐさま身を跳ね起こし距離を取るものの、膝をついた為に土塗れになってしまった。
天元の手によりダウンしたのはこれで六度目だ。
「どうしたどうした! 勝利宣言した割には大したことねぇな!」
「っ…こっちは今朝繋がれたばかりで付け焼き刃の仲なの。そっちみたいに阿吽の呼吸なんてできないから」
「阿吽? おい煉獄、阿吽だってよ。俺とお前」
「そうか! 忍である君と同格に並べられるのは光栄だな!」
「元忍だっつの。そんな盛大に褒めんなよ恥ずかしい」
ハツラツと笑う杏寿郎に、飄々と突っ込む天元はどちらも通常運転。
そんな二人に翻弄され、幾度となく打撃を喰らっている蛍は蛇行運転。