第12章 鬼と豆まき《壱》✔
(平気なわけ、ない)
本音は、頸を縦になど振れはしない。
朝からずっと太陽の下で体を曝け続け、柱と戦闘も混じえ、終いには飢餓症状も見え隠れしている。
杏寿郎に叩き込まれた全集中の呼吸で、どうにか立てている状態だった。
限界は遠くない。
「それより禰豆子は不参加だから。三対四じゃ釣り合わない。よって隊士役も一名減らして頂きたいです」
「は?」
「減らすだとォ?」
頭を切り替えるように、姿勢を正して手を挙げる。
唐突な蛍の提案に、柱達も目を丸くした。
「できれば悲鳴嶼さん指名で」
「おま…旦那が出りゃ一発でやられるとわかってか」
「訊かなくてもわかるでしょ」
鬼殺隊の中で最強の柱だと謳われている悲鳴嶼行冥。
彼が戦場に出れば、瞬時に勝敗は決してしまうかもしれない。
「悲鳴嶼さん、強いから。腕相撲でも瞬殺されたし。すっごく強いから」
「鬼子よ…他の柱達もそれぞれに腕を磨き、独自の力を持っているぞ」
「うん。でも強いですよね、悲鳴嶼さん」
頑なに行冥の強さを推し続ける蛍に、ぴきりと空気が乾いた。
「ほお…言ってくれるじゃあねぇか。そりゃあ俺らが弱いってことか? 蛍チャンよぉ」
「冗談じゃねェ…其処らにいるような鬼に、柱の強さを見切られて溜まるかよォ」
「うむ! 確かに聞き捨てならない…!」
ゆらりと威圧を滲ませる天元達に、鬼面の下でしてやったりと目を細める。
下手に彼らが闘気を抑えて場を譲ってしまえば、行冥が出てくる危険性があった。
しかしここまで闘志を燃やす彼らの中に、"譲る"という選択肢は出てこないだろう。
「いいだろう。悲鳴嶼さん、悪いがあんたは最後の砦だ。出番まで待っててくれ」
「…わかった」
「その前に俺が潰してやるがなァ」
「彩千代、禰豆子の箱は」
「テメェもだ冨岡ァ! すぐに無視すんじゃねェ!!」
闘志を燃やす天元とメンチを切る実弥に、胸を張った杏寿郎が笑う。
「よし! では早速場所を移すとしよう!!」
日没まで、残り二時間。